第119話

ミハエルの方で新たな動きがあった。


彼は法衣貴族として公共事業に関する管理を主業務としている。


公共事業の管理というと、公的施設やインフラ整備などに関わる建設業に対して指導を行い、不正が起こらないよう目を光らせることが大半だ。


公共事業の入札の責任者も務めるミハエルは、その権限から情報漏洩や目こぼしを期待されて抱き込まれようとされていた。


こちらの世界では、建設関連も大元として商業ギルドが仕切っている。


建設業というと、前の世界では大手ゼネコン同士のカルテルや談合などが定期的にニュースで取り上げられていたが、こちらでは商業ギルドに加盟している大商人が仕切りを行い、下請けや孫請けに回して利潤を得ているようだ。


建設業に従事している専業の職人は少なく、独自のギルドも立ち上がっていない。さらに、人足として農業に従事する小作人や難民などを期間限定の日雇いで雇用することが多いときた。


要するに専門的な組織ではなく、商業ギルドと大商人の下に人材ブローカーのような者が入り、その場その場で短期雇用の者を安い賃金で働かせているのである。


因みに、入札とは公的機関と民間事業者の癒着や不正を防ぎ、発注元にとって最も良い条件で発注先を選ぶためにある。


この入札に関しては、落札金額に指標が設けられているというのは想像できるだろう。


あまりにも安い発注額だと手抜き工事や粗悪な資材を投入され、高過ぎると原資が圧迫される。


そういった不具合や不正が起こらないように調整するのが、ミハエルの職務だといえた。


調査の結果、彼を罠にはめたのは間違いなくこの入札に絡む商人たちである。


複数形からわかるように奴らは単独ではない。入札金額の指標である最下限額を事前に知るために画策し、交互に利益を貪ろうというのだ。


前述のように落札さえしてしまえば、大した労力もなしに大きな儲けとなる。資材を高値で卸し、人材確保はブローカーに任せて安全や労務管理は丸投げしてしまえば、手間もかからずおいしい商売なのだ。


当然、現場で働く者たちは安い賃金で過酷な労働を強いられる。時期によっては仕事のない小作人や難民を使うのはそのためである。


危険でキツい仕事でも、生活のためには働かざるを得ないのを逆手にとった搾取ともいえた。


ミハエルから入札に関する情報を手に入れることができれば、商人たちは自分たちが持つ過剰在庫資材や人材ブローカーの人足確保の状況をみて入札者を決めるのである。




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