第111話

二年程前のことだ。


ゾディ茶が原因で自ら命を絶った貴族令嬢がいた。


詳細に関しては胸糞の悪いものだ。


簡単にいえばゾディ茶の催淫効果で痴態をさらし、それをネタに脅された結果に非業の死を遂げたというものである。


事案としてはどこの世界でも似たようなことが起こりえるのだが、その令嬢の死に疑問を持った人物がいた。


本来、その令嬢は自由奔放に生き、なるべくして身を堕とし命まで失ったとする見解が強かったのだ。しかし、例えどのような生き様をしていたにしても、肉親の情は揺るがない場合がある。


その貴族令嬢の祖父は、年齢を重ねながらもこの国の騎士団の重鎮として健在だったのだ。


最愛の孫を失ったことによる哀痛や憤怒は当時を知る者にとって身震いするほど激しいものだったそうで、その感情は今もなおくすぶっていた。


賭けの要素が強かったのだが、調査の結果として判明した事実をまとめた封書を送ったことで、想定以上に刺激することになったのかもしれない。


何せ、こちらに駆けてくる者たちの先頭には、団長や副団長格の鎧をまとった人物が紛れているのである。


闇ギルドのメンバーとて、その戦闘力はそれなりのもののはずだが、相手が騎士ともなると大した抵抗はできないはずだ。


騎士という存在は、常人離れした化け物揃いとされている。


剣技の熟練度はもちろんのこと、20~40kgもあるフルプレートアーマーを装備して、長時間動き回れるほどの体力と筋力を有しているのだ。


さらに、フルプレートアーマーには斬撃はあまり通用しない。ハルバートやハンマーによる打撃や、ランスでの刺突などでなければ致命傷を与えることすら難しいのである。


特に今回のメンバーは、少数だけに精鋭を揃えていると考えられた。


噂に違わなければ、かの御仁は「疑わしければ罰せよ」を実践する超武闘派で、残虐非道な面も持ち合わせているそうだ。しかし、この強襲で皆殺しを指示することはないだろうとも踏んでいた。


おそらくリーダー格は捕らえられて拷問され、闇ギルドの一部もしくは全容を吐かされることになる。


最愛の肉親を奪われた復讐のため、そして自らの怒りのはけぐちのためにも手段は選ばないに違いない。


そうなればこちらの労力も報われ、俺がリスクを負うことも少ないだろう。


それですべてが解決するわけではないが、敵の厄介な取り巻きたちを一掃する結果を生むはずである。


最終的なターゲットの処断についても彼らが実施してくれれば言うことはなかったが、正直な所、そこまで楽観視はしていなかった。



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