第110話

目の前の一軒家を死角になる位置から監視している。


その中では二十分ほど前に現れた団体が家探しのようなことを行っていた。


さすがに家具をひっくり返すような手荒なことはしていないようだが、各所で明り取りのための手段に映し出される影がおもしろいように舞っている。


それが目的ではないにしても、奴らに盗賊や隠密行動の素質がないのは明らかだった。


おそらく腕っ節にものをいわせるだけの冒険者崩れか、一般常識が欠けた現役冒険者、それに犯罪者予備軍あたりが組織を構成しているのだろう。


闇ギルドというと反社会的な組織をイメージするが、実情は正にその通りだった。


暴力による恐喝、相手の弱みを握ってのゆすり、邪魔者の排除など、おおよそ非合法な活動によって収益を得ている。


もともとはギルドの創設者である男の私兵が、取引相手からの無理難題を受け入れる土台として作った組織だ。


それが他からの依頼も受諾するようになり、それなりに大きなものとなった。


正規の構成員は30名程度、非正規やたまにアルバイトのような形で参加する者を合わせると100名近いらしい。


正規の奴らはそれなりの腕前と頭脳を持っているそうだが、個人的には暴力を生業とする者たちを相手取るのはそれほど難しいものではなかった。


簡単な話だ。


暴力を生業としているなら、それ以上の暴力で対抗すればいいわけである。


元の世界よりもこちらの世界の方が命の価値は低い。


加えて、冒険者や裏社会の人間が、行方不明や失踪することなど日常茶飯事なのである。


今夜に10や20人くらいの人間がこの世から消えても、大騒ぎするのは所属している組織くらいのものだろう。


とはいえ、俺ひとりでその数を相手取ろうと思うほど無謀でも戦闘狂でもない。


もうしばらくすれば強力な援軍が来るはずなのだが、果たして時間通りに現れるだろうか。


想定通りに事が運ばなければ、計画を変更する必要が生じてしまう。


それ自体は二段三段構えで用意しているのだが、俺個人のリスクが高まってしまうため、あまり歓迎したくなかった。


もう10分もすれば中の奴らも諦めて帰るだろうかと次のタイミングを見計らっていると、離れた所から蹄の音が伝わってくる。


音の連なりからすると3~5騎といったところか。


中のヤツらが13人だったことから戦力的には拮抗、もしくはこちらがやや有利に思える。


こちらといっても残念ながら俺の仲間というわけでない。


むしろ、利用するために呼んだ捨て駒に近い者たちだった。


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