第109話

街外れにある一軒家。


そういえば響きはいいのかもしれないが、実際は不便な立地にある廃屋に近い建物だった。


ただ、そんななりでも貸家として出されている。


こういったところは、元の世界とは比べ物にならないくらい杜撰なものだ。


普通なら借家としての価値を維持するために、管理に幾許かの費用を計上するものだろう。


しかし、わずかに朽ちた部分もあるこの建物は、現状渡しで貸し出されるらしい。


家屋は雨風をしのげればよく、それ以上の快適性を求めるならば自分自身で費用負担を行い改修しろというのがこちらの常識だという。


農家が掘っ建て小屋で生活していることが多いと聞くが、それだけ資材が高いからだそうだ。一概にはいえないが、広大な平地で日々の農作業を行うところを考えると、木材の伐採場や採石場などからは距離があり、運搬のための費用も莫大な金額となるのかもしれない。


木材や石材そのものより車や貨物列車などの輸送手段がないことが原因なのは、街中での塩や小麦粉の価格を考えても納得できる。農家における木材や石材と同様、産地からの距離が遠いだけに異常な高値であることが多かった。


特に内地に行けば行くほど、塩の価格は貴金属や宝石などに近い数値となる。


生きていくためには塩分が必需品となるが、岩塩がとれない山中などでは行商人に頼るしかなかった。


そこに目をつけたのがゾディ茶を流通させている男である。


その男は標高の高い山中に行商を行っていたのだが、ある時にゾディの作用について行商先の村人から話を聞く機会があった。


それからおよそ十年。


その行商人は段階を経て国や商会連に許可なくギルドを立ち上げた。


ギルドとは職業別に組織された組合である。現在のギルド創設には国や他ギルドが合同で運営する商会連の許可や承認が必要なのだが、それらの許可を得ずに裏営業を行っているギルドも存在した。


いわゆる闇ギルドというやつだ。


この行商人が立ち上げた闇ギルドは巧妙に貴族や富裕層にゾディ茶を広め、その依存性と効能によって起こった痴態を脅迫材料として活用した。


やり方はともかくとして、先見の明とそれに負けない頭脳を持ち合わせていたといえよう。


結果、奴は絶大な力とこれ以上にない後ろ盾を持つに至った。


これだけのことを調べあげるのに一週間ほどの時間を要した。また、小悪党から中規模の商会を牛耳る会頭までの命が散っている。


少し派手にやりすぎたというのはそういうところである。


ただ、金のために悪事に手を染めた奴らに同情の余地などない。


俺自身も手を汚したとも思わない程度のことだった。




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