第108話

かなりの強硬策を行った。


めぼしい人物を幾人も拉致して尋問。


必要な情報を引き出すためとはいえ、我ながらリスクの高い賭けに出たものだ。


次の目的も明確化したため、第二段階へと移行する。


おそらく、相手の組織は敵対勢力が現れたと認識しているはずだ。


俺が尋問した者たちは全員が口を開けなくしてある。相手側にとっては、そいつらの所在すらわからないはずだった。


事に及んだ際にいくばくかの目撃者はいたかもしれない。


しかし、俺とて素顔をさらすような不手際は犯さない。


しっかりと変装し、年齢をぼかすことはしている。


例のコムオーバー・ウィッグ···バーコードハゲのヅラを装着し、腹回りには厚めの布をサラシのように巻いて小太り中年おじさんに仕上げているのだ。


本来は性別がわかりにくい中性的なビジュアルに仕上げたいところだが、俺の身長や肩幅では難しい。


もちろん顔は化粧でぼかせるし、長髪のウィッグを装着することで印象操作は可能である。


ただ、体格を細く小さく見せることは難しく、有事の際に備えて動きにくい服装をすることは避けたかった。


要するに、女装すると大阪のミナミを歩いているオカマかオネエのようになり、不必要に目立ってしまうのである。


オカマやオネエを否定する気はさらさらないが、典型的な元特殊部隊員の体格である俺が、女装するとどんなビジュアルになるかは想像に難くないだろう。


ゴツイ体格の冒険者が行き交うこちらの世界でも、それなりに身長のある者はやはり目立ってしまう。


元の世界出身者の俺は、こちらの住民と比較しても平均身長を大きく上回る。想像してみればわかると思うが、日本人が女装した190センチメートルのプロレスラーを目撃すると何を思うだろうか。俺自身が190センチメートルもあるわけではないが、こちらの世界のスケール感だと似たような状態になるのである。


だからこそ、普段の俺は着痩せして見える服装を着て人前では猫背なのだ。場合によっては相手の目を見ずにおどおどとした様子で話す場合もある。


加えて今の俺はコムオーバー・ウィッグをつけ、腹回りをふくよかに見せたオッサンだ。


自尊心がどうとか、格好良く見せようなどという気はさらさらない。


むしろ、そういった感情は仕事では邪魔にしかならず、最悪の場合は余計な関心を引き身を危険にさらしてしまう。


誰がなんと言おうがどうでもよかった。


カレンというパートナーが俺の本質を知っていてくれれば、それ以外に望むものはないともいえるのだ。





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