第107話
勅書というものがある。
簡単にいえば、国王から下賜された公文書だ。
この国では、貴族は叙爵によって領地を国王から預かる。領地の規模や隣領との境界線などは別紙にて記載されるが、国に納める税率や爵位などは任命書のような体裁で記されていた。
頻繁に発行されるような書面ではないが、世襲時や領地規模の変更などの度に発行されている。
貴族にも宮廷貴族や法衣貴族、領地貴族などの種類があり、同じ貴族でもそれぞれに担う職責が異なった。
宮廷貴族とは、いわゆる文官で宮廷や王城内で働く者を指し、領地を持たない貴族である。また、法衣貴族は宮廷貴族と同じ文官だが、司法や行政上の職務を担う官職として身分を保証された爵位のない者をいう。
このふたつの貴族の大きな違いは、血筋が貴族か平民かの違いにあった。
宮廷貴族については対王族や対貴族を主体とする業務、法衣貴族については対平民を主体とする業務を行う者と分類すればわかりやすいかもしれない。
また、領地貴族はかつての宮廷貴族が時の国王から勅書を下賜され、領地を治めることを許された者だということだ。
そして今回の俺の目的はその勅書にあった。
ソフィアが生まれ育った伯爵家の先々代国王から下賜された勅書の行方が定かではなかったのだ。
それがゾディ茶に関する調査を行う上で、可能な限り早い段階に解決すべき案件のひとつだったのだ。
個別に追えば大して複雑な内容ではない。
面倒なのはそれがソフィアが殺害した男の家、侯爵家よりも上の立場の者が預かったということだ。
侯爵より上位となるとあとは王族か公爵くらいしかないのだが、いずれにしても国の支配者層である。
元特殊部隊員としての実力を持つソフィアが言いなりになるしかなかったことから、一筋縄ではいかないことは予想していた。
むしろ、ソフィア自身が積極的に悪事に手を染めていた方が遥かに解決策が楽だったろう。
俺は表情を変えることなく、つい先程拉致した男の爪の間に針を刺しこんだ。
絶叫されてもうるさくないように、猿ぐつわをあらかじめ噛ましてある。
くぐもった声が聞こえているが、あまり気にしないようにした。
少し時間を置き、男が静かになってから言葉を発する。
「あと2本だ。それを中指と人差し指に差し込んでから話を聞く。あまり無駄に時間を取らせないでもらえるとありがたい。」
男の目にはっきりと恐怖が浮かんでいた。
拷問は嫌いだ。
ただ、やる時には徹底的にやらなければ真実には近づけない。
しばらくして、またくぐもった声が聞こえてきた。
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