第105話
「俺は知らねぇ。荷運びの依頼を受けただけだ。」
「そうか。」
俺は追加で、管状の棒を目の前の男の右足ふくらはぎに突き刺した。
痛みを堪え、目を剥くような男の鼻に軽いジャブを打つ。
微かに触れる程度のジャブで鼻先が赤くなるくらいだ。この痛みで足の痛みが緩和することもあるが、尋問するにはやんわりと長く続くような痛みの方が効果が高かったりする。
拷問は嫌いだ。
ただ、必要に迫られたときには実行する。
もしかすると、痛烈で陰惨な拷問よりも、俺のやり方の方が悪質だと思う奴もいるかもしれない。
「両足に刺さった管から血が流れているのがわかるだろう?質問に答えなければ管はどんどん増えていく。大した量の出血ではないから、何時間も意識を失うことはない。衰弱し、まともな生活が送れなくなっていくがな。」
男に刺した管はエイジュの根でできている。
エイジュとは、ヨーロッパ南部や南西アジアなどに生息する英名でブライヤと呼ばれる常緑低木だ。ツツジ科の植物といった方がイメージしやすいかもしれない。
こちらの世界でも、刻みタバコを吸うパイプがそれなりに普及している。貴族や大商人の一部が愛飲しており、庶民もお手製でパイプを作って吸う者もいた。刻みタバコも嗜好品だが、元の世界のように高い税金がかけられていないため、安い物なら街中で簡単に手に入るのである。
そのパイプの材料には、主にエイジュの根が使われていた。難燃性が高く軽量で、最近は高級材として手に入りにくくなったが、その管部分の先端を鋭利に削り所持していた。
鉄で同じような管、いわゆる鉄パイプもないわけではない。しかし、精度が低いため歪な形のものが多かった。配管に使うならともかく、俺の目的に用いるためには少し問題があったのだ。武器として使えば傷口をズタズタにする。それと同様に、毒ヘビや毒虫などに噛まれた際に、毒を体内から排出するための管として使うために必要だったのだ。
そのエイジュの管を無造作に男に突き刺し、適度に出血させているのである。
管が刺さった状態では血はいつまでも止まらないため、抜いて止血するまでは垂れ流し状態が続く。
数時間かけて徐々に体力や体温が奪われ、意識も白濁としていくのである。さらに不衛生な場所では血の匂いを嗅ぎとった肉食のドブネズミ、山野では吸血ヒルなどが迫ってくる。
元の世界の先進国ではあまり想像できないかもしれないが、抵抗出来なければ生きたまま食い散らかされたり、血を吸われるという恐怖もこちらの世界ではありえない話ではないのだった。
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