第104話

ゾディという花が、どのようなものかは知らなかった。


花の形態などをソフィアに聞いて、鳥媒花ではないかと推測する。


鳥媒花とは、蜜を吸いに来るハチドリなどを利用して花粉を運び受粉する花だ。


標高1000メートルくらいの山峡で発見されたらしく、他での生息はほとんど見られないらしい。


このゾディをフレーバーとして用いることで、アップルティーのような風味になるとのことだった。


ただ、このゾディには副作用があり、精神的に高揚感を得たり、幽体離脱のような感覚を味わえるとのことである。


俺はゾディの作用を聞いて、サルビア・ディビノラムという幻惑誘発性のあるメキシカン・セージを思い出した。


サルビア・ディビノラムとは、簡単にいえば幻覚作用のあるハーブである。幻覚症状などでいえば大麻やアヘンを最初に思い浮かべる人もいるだろうが、原産地の気候が一致しなかった。


欧米ではマジックミントやレディ・サリー、サリーDと呼ばれ、若年層を中心に乱用されている。ただ、危険性を記す科学的データが少ないこともあり、国際的にはあまり規制されていないというのが実情だった。


詳しい内容は省略するが、サルビア・ディビノラムは水パイプを用いて蒸気を吸引することが多く、より長期的な効果を求めるため葉を口の中で噛むこともある。


こちらの世界では同じような危険薬物の普及はほとんどなく、当然のごとく知識や資料なども存在しなかった。たまたまなのか、それとも意図的なのかは不明だが、紅茶のフレーバーとして含有されてしまったというわけだ。


正直なところ、金持ちや貴族が趣味でそういった幻覚作用を楽しむのは、好きにすれば良いというのが本音である。


ただ、それによって少なくない犠牲者が出ていることが問題だった。




「ゾディ茶にはわずかながら常習性と幻覚作用、それに催淫効果がある。そういえばわかるだろう?」


ソフィアの言葉からイメージするのは、吐き気をもよおすような用法である。


つまり、ゾディ茶はフレーバーティーとして貴族や大商人、さらに王族にまで氾濫している可能性があった。


ゾディ茶は軽度な症状しか起こさない。しかし、危険薬物の乱用とは軽い効能のものから入り、気がつけば底なし沼のように強く作用するものへの中毒に至っているというのが普遍なのである。


このゾディ茶をフレーバーティーという人気商品に仕立てあげた人物と組織を、可及的速やかに特定しなければならない。


ソフィアすらその全容を把握できていない状態だそうだが、事は急を要した。


なぜなら、この世界の有力者を薬物中毒にして牛耳ろうとしている者がいる可能性が高いからである。


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