第三章 Devil Dogs

第102話

冒険者ギルド本部は10万人都市ノゼーラに存在する。


10万人といえば大した規模ではないように思えるだろう。日本なら全国の3割以上の都市がそれよりも大きな都市である。


しかし、この世界では、その規模は全体でも数十都市しか存在しない。元の世界なら、人口1000万人超のメガシティと同等だといっても過言ではない割合である。


因みに、メガシティと呼ばれる都市は地球でも30程度しか存在しない。人口統計がしっかりと行われていないこちらでは正確な対比はできないが、ノゼーラがそれだけの大都市だと思ってくれればいい。


「あんた、余所者だな。」


「だったら何か問題があるのか?」


「この辺りの流儀ってものがあるだろう。それを知らずに人にものを聞くなと言ってる。」


情報を得るために、少し派手めに聞き込みを行った。


半日ほど治安の悪い地域を歩き回り、出て来たのが目の前の男だ。


「情報料なら対価に見合ったものを渡すつもりだが?」


男がチッと舌打ちした。


それと同時に周囲から3人の男が現れる。


どうやら虎の尾を踏んだようだ。


「金の問題じゃねぇ。聞くネタの問題だ。」


男はそう言って、新たに現れた男たちに顎で指図した。


無表情にこちらへと向かってくる先頭の男が拳を振りかざした。


なんのことはない。


こいつらはただの素人だろう。


スラムなどで体格にものを言わせた喧嘩自慢と変わらなかった。


踏み込み肉薄する。


鳩尾へと掌底を叩き込む。


すぐに間合いをあけ、ふたりめの男にサイドステップをもちいて近寄り、足にローキックを入れる。


移動時に浮かせた片足を狙ったため、大きくバランスを崩して倒れた。


その顔面をサッカーボールのように蹴る。


呆気に取られたもうひとりの男に飛び膝蹴りを入れた。


格闘技など知らない者が相手なら、離れた間合いからの打撃も簡単に入るものだ。


「てめえっ!?」


最初の男が慌てて刃物を抜き出すが、そのタイミングで手首を蹴りあげる。


細身のナイフが男の手から飛び、地面へと落下して滑っていった。


掌底で顎を揺らして意識を飛ばす。


量産品のような小者だろう。


大した情報は期待できないが、聞き込みなどそんなものだ。


小さな情報を集めていく過程で重要なネタや人物に行きあたるか、次の選択肢のためのロジックツリーが作成されていく。


情報収集に必要なのは足だと言われる。


それは正しいが、正確にはその先の論理的思考に結びつけるためのネタ集めなのである。


執行官の職務とは、このサイクルをいかに効率よく行えるかが重要なのだった。




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