第67話

人を指導することについては、それなりに経験があった。


とはいえ、こちらで元の世界で身につけた戦闘術を広める訳にもいかない。


「驚きました。Aランクの冒険者を紹介すると言われたので、どれだけ厳つい人が出てくるのか不安だったのですよ。」


人当たりのいい男だった。


常に笑顔を貼りつけて、柔らかい雰囲気を放っている。


貴族というよりは、やはり商人に近い物腰といえよう。


「基本的にはあまり殺伐とした依頼は受けないからな。」


「それでどうやってAランクまで上がったのですか?」


次女の方も愛嬌のあるお嬢様といった感じだった。


三男の方が少し年上で兄にあたるそうだが、一見すると仲の良い兄妹に見える。


「辺境の地で盗賊狩りをやっていた。それで一気にランクが上がったんだ。」


嘘ではなかった。


執行官になる前は辺境の各地にのさばる盗賊団のアジトを探し回り、殲滅することを主にやっていたのである。


「それって、かなり危険な依頼じゃないですか?」


「危険といえばそうだが、魔物を相手にするよりははるかにマシだと思う。」


盗賊たちが拠点とする洞窟は、狭くて天井も低い。


長物と呼ばれる武器は使用出来ず、同士討ちの危険から奴らは弓や魔法も使うことができないのだ。


狭小かつ暗い所では、盗賊よりも俺の技量の方が上回った。


建物を拠点としている場合もあったが、その際は連れ込まれた人間の有無を確認して、救出が必要ない状況なら火や毒攻め、魔物を誘導するなどして潰すことにしていた。


盗賊たちは多くの人々の財産を奪う。


それは金品に限らず人や家畜、食糧や女性の貞操にまで至り、大きな爪痕を残す。


だからこそ他国からの流入が激しく、犯罪に手を染める冒険者や傭兵出身者の多い辺境の地では、討伐依頼が後を絶たなかった。


さらにその被害を考えると、報酬額もそれなりに高額で戦利品などの分配も条件に入っていることが多く、ソロの冒険者としては相当な実入りだったといえる。


もちろん、それを主体に活動していることは伏せていた。


盗賊の討伐は冒険者の依頼の中でも一二を争うほど犠牲者が出る危険なものだったからだ。


対人戦闘や拠点壊滅のノウハウを持った俺のことが噂になれば、当然甘い汁を吸おうとする奴らも増えてくる。


そういったことへのリスクヘッジとして冒険者ギルドと連携を深めていったことが、執行官という立場に至る要因だったといえるのだ。



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