第68話

「それじゃあ、私たちもランクを上げたければ、盗賊団の壊滅を目指したら良いってことかな?」


妹のミアがそう言うと、兄のディルクは呆れ顔で首を振った。


「実力がなければそう上手くはいかないさ。この人はもともと対人戦闘に長けていたのだと思うよ。」


そういった会話をする兄妹は、俺の腰にある武器にさり気なく目線をやっていた。


「逆だな。」


「逆?」


「俺は攻撃魔法は使えない。それに、剣や槍術にも秀でているわけじゃないんだ。だから魔物相手の立ち回りだと、仲間に入れてくれるような奇特なパーティーは存在しなかった。」


「だからソロで盗賊団を狙ったということですか?」


「そういうことだ。」


ミアの質問に答えていると、ディルクがそっと息を吐いたのを感じた。


「簡単なことじゃないことくらいわかりますよ。あなたのそのナイフはかなり大型ですけど、剣などに比べるとリーチが短い。しかしそれを理解した上で使いこなしているということでしょう?相当な実力がなければできることじゃありません。」


「自尊心をくすぐるようなことを言ってくれるが、他に取り柄がなくて否応なしに選んだスタイルなのは間違いないんだ。」


「謙遜にしか思えませんよ。」


「まあ、盗賊団を狙うというのはあまりおすすめできたものじゃない。」


「どういったスタイルなら、私たちにおすすめですか?」


「実力を知らないからな。なんとも言えない。」


「確か冒険者ギルドに修練場があって、そこで模擬戦もできるって聞きました。」


「確かにその通りだけどな。あまりおすすめはしないな。」


俺自身の実力や技術を、あまり多くの人間に見せたくはなかった。


「どうしてですか?」


ミアが他意のない表情でそう聞いてくる。


「鍛錬には便利な場所ではある。ただ、冒険者にもいろんな奴がいて、相手の実力を見極めてから自分たちの都合のいいように使おうとしたり、罠にはめて搾り取ろうとする奴もいる。いくら実力があろうとも、冒険者になりたての時は特に注意を払った方がいい。」


「···闇深いんですね。」


「闇というより、人の本性が表れやすい職業だからな。大半が金や名誉を目的として動いているんだから、あたりまえといえばそうだろう。」


その時のふたりの目が印象的だった。


普通なら不安や恐怖の色でも浮かびそうだが、なぜかこの兄妹は共に不敵な色を浮かべていたのだ。



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