第66話
「さすがね。」
カレンがしたり顔でそう言うが、嫌な予感ほど的中するものだ。
「副議長と新人冒険者との関係は?」
「副議長はカーター商会の会頭よ。新人冒険者の祖父にあたるわ。」
もろに直系ということだ。
商会の会頭なら、便宜を図ってもらうために娘を貴族に近づけることくらいあるだろう。この世界ではそれほど珍しくもない話だ。
推測でしかないが、だからこそ孫のふたりは貴族としての生き方を逸れたのかもしれない。
貴族は青い血が流れているといわれる。
肉体労働などせず、色白な者が多い。それで静脈などが青く浮き上がり、高貴な血であることの表現として青い血などと呼んでいるのだ。
ただ、皮肉なことに、これは貴族という社会的地位に伴う義務を忘れた馬鹿貴族を比喩する言葉でもある。血の通っていない冷血な極悪人を庶民がそう呼んだりするのだ。
世の中の不公平や厳しさ、貧困などに目を向けず、贅の限りを尽くす貴族に対して最大限の侮蔑と恨みがこもった言葉だといえる。
副議長の孫たちがどういった思考を持っているかはわからないが、そういった貴族の闇に翻弄されていることは十分に有り得るのである。個人的に冒険者として活動を始めた経緯にはそれなりに興味がわいた。
「ソフィアにはそのことを話したのか?」
「いいえ。」
カレンの意図を図ってみた。
わざわざ本部の執行官を敵に回すことはしないだろう。
ここで考えられるのはふたつ。
俺に手柄をあげさせるためか、それともふたりの孫はほとんど何も知らないかのどちらかだ。
カレンの性格から考えると後者である可能性が高かった。
「副議長の身を案じてはいるが、蚊帳の外という訳か?」
「ええ。あのふたりのことは副議長から話を聞いていたの。貴族としての生きる道は閉ざされた。だからといって、商会を手伝うには領主との関係が近過ぎるのよ。」
かなり面倒な話だった。
あくまで生まれ育った環境や立場が重しとなってのしかかっているだけなのだ。
「素質はあるのか?」
「それはわからないわ。ただ、素養はありそう。」
素質というのは先天的な才能のことである。対して、素養とは後天的に身につけたものをさす。
概して、後者の方が役に立つ。
「どうしたらいい?」
カレンはあくまで冒険者の卵としてふたりを育てて欲しいのだと思った。
ただ、彼らのとりまく環境がそういった時間を与えることを難しくしているのかもしれない。
「副議長は公正な人よ。私がこちらに来た時に、年齢や性別を気にせず能力に目を向けてくれた。だから同じ程度の恩は返しておきたいの。あなたならそういった教育もできるかと思ったからお願いしたいのよ。」
こちらでは、元の世界以上にビジネスで女性を蔑視する傾向にあった。
カレンは能力も実績も申し分ないが、新しい赴任地ではそういった視線に晒され、非協力的な輩や性的な対象として近づくような馬鹿どもが少なからずいたのだと思う。
だからこそ、副議長への恩に報いたいというのは本音なのだと感じることができた。
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