第57話
「改めて、本部の執行官ソフィアよ。」
明朝、冒険者ギルドを訪れたのは彼女ひとりだった。
先にカレンと面談し、こちらに来た理由も告げたそうだ。俺はタイミング的に詳しいことは知らされることなく、彼女との面談を受けることになった。
因みに、支部よりも本部の方が立場が上なのはどこの組織でも同じだ。だからこそ面談という形で情報提供しなければならない。
「こちらで同じく執行官をやっているナオだ。」
俺はそういって右手を差し出した。
ソフィアは一瞬警戒した仕草を見せたが、すぐに手を伸ばして握手に応じてくる。
こちらの世界、特に冒険者や貴族に挨拶がわりで握手をする習慣などなかった。せいぜい商人同士が商談成立時に友好の証としてするくらいだろう。
握手は元の世界で中世の騎士の挨拶がルーツだといわれている。右手を出し合うのは利き腕に武器を持っていないことを示し、敵対する気はないという意思表示でもある。
ここで推測が確信に変わった。
俺はダメ押しの言葉をソフィアに発する。
「DE OPPRESSO LIBER」
「!?」
その言葉を聞いたソフィアが明らかに動揺した。
刹那、腰の方に手を回し、大型のナイフをこちらに向けてくる。
俺はゆっくりと両手をあげて、敵対する意思のないことを示した。
「Ooh-rah」
そう言葉を発すると、ソフィアは驚いた顔をしながらも理解したのかナイフの構えを解く。
「そう、やはりあなたも。」
「お互いに予感はあったわけだ。」
俺はそう言って、席にかけようと手でうながした。
まず、昨夜のソフィアが剣を携行していないことが気になっていた。街中のため宿に置いてきた可能性も無いわけではないが、冒険者や執行官が職務で動き回る場合に丸腰になることは考えにくい。
さらにローブの膨らみから、大型のナイフを所持していることもわかった。女性でショートソードというならば不思議ではないが、大型のナイフをメイン武器やサブとして携行することなどまずないといえる。軽装備とはいえ、着けているものを見る限り魔法士ではないのは明白だ。コンバットナイフを得意としていると考えるのが自然だった。
そして、こちらの世界では習慣のない握手に応じたことから、同じ世界の西欧人を連想したのである。
因みに、『DE OPPRESSO LIBER』はラテン語で『抑圧からの解放』という意味で、実はアメリカ陸軍特殊部隊のグリーンベレーの標語だったりする。
彼女の独特な歩き方から特殊部隊の訓練を受けていること、ソフィアという名前からアメリカ人だとアタリをつけたのだ。
米軍には6つの軍種が存在する。
陸軍、海軍、空軍、海兵隊、沿岸警備隊、宇宙軍に別れるが、宇宙軍以外にはそれぞれに複数の特殊部隊が設けられていた。その中から彼女がグリーンベレー出身だと察したのは、やはりその動きからに他ならない。
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