第58話
同じ米軍とはいえ身につける格闘術はそれぞれ異なり、その基本動作によって歩き方などに若干癖が出るのである。
俺が海兵隊でMCMAPを修めているように、ソフィアもまたMACと呼ばれる米陸軍格闘術を身につけていた。
「あなたは海兵隊出身?」
先ほど発した「Ooh-rah」というのは海兵隊でよく使われる言葉だ。挨拶だったり掛け声だったりするのだが、これはかなり有名である。
一瞬ソフィアに芽生えた警戒心も、所属は異なるとはいえ同じ国の軍に所属していた者として親近感を感じたのではないだろうか。
少なくとも俺はバルドル人の双子と出会い、国や所属も違うのに同じ世界の出身だということで身近に感じたものだ。
「そうだ。」
さて、大変なのはこれからである。
同じ世界の出身、しかもかつては同じ国に軍人として仕えていた経歴を持つ。そして、こちらの世界では同業者なのである。
通常なら信頼を寄せて関係の構築を深めるようなものだが、状況が状況だけに無造作に歩み寄ることは避けたかった。
「···いろいろと話したいことはあるけれど、今は優先すべき事案について情報交換しましょうか。」
「君たちが来た理由についてまず聞きたい。」
「事件の捜査よ。」
「毒による暗殺事件?」
「何か関与を?」
「いや、噂で知った。」
「そう。」
「詳しいことは知らないが、症状を聞いたところだと珍しい毒物のように感じた。同郷の者の仕業か?」
「···隠しても仕方がないわね。使用された毒物は、おそらくα-アマニチンよ。」
α-アマニチンというと、タマゴテングダケなどの毒キノコから検出される毒素である。元の世界ではデス・キャップと呼ばれ、ヨーロッパで数多く自生していたと記憶している。
こちらの世界でも同じようなキノコが存在していても不思議ではない。ただ、その多くは地元で毒キノコとして認知され採取されることはないだろうから、街に出回ることはほぼないはずである。
「確証は?」
「ないわ。ただ、経験と知識からほぼ間違いないと思う。」
俺がこういったことに詳しいのは、軍ではなく事業を通じて得た知識があるからだ。
一時期海外から食材を輸入していたことがあり、その関連で毒のある動植物を詳しく調べたことがあった。
しかし、ソフィアがそういったことに詳しいのは、俺とは別の理由である気がする。
「君はもしかして衛生兵だったのか?」
グリーンベレーは衛生兵の育成にかなりの力を注いでいる。
一般的な治療や薬の処方だけでなく、虫歯の治療や出産まで行う『歩く病院』とまでいわれており、寄生虫や細菌にも精通すると聞く。さらに獣医としての訓練も受けており、敵地の非戦闘員との絆を育む親善大使としての側面もあった。
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