第55話
「おまたせしました。それでお話というのは何でしょうか?」
オーダーを済ませたウェイトレスがそう言った。
「この街に最近来た冒険者や傭兵といった身なりの者を探している。そういった者が客の中にはいたりするだろうか?」
「えと、もっと他に特徴とかはないですか?ここは交易都市ですし、特にこのお店は他の地域から来られる方もかなり多いので。」
要領を得ない質問をするものだと感じた。
こういった調査には慣れていないのだろう。
「では、この数ヶ月の間に移住してきた冒険者についてはどうだろうか?」
その質問でウェイトレスが俺に視線をやるのを感じた。
確かに今の質問の内容であれば合致するが、それは俺だけではないだろうに。どうやら、常連になって気安くなったのが災いしたようだ。
彼らはすぐに立ち上がり、俺を包囲するように周りの席へと腰を下ろした。
店の片隅にある丸テーブルに座っていたため、逃げ場を無くされてしまったようだ。
「何か?」
「冒険者証を見せてくれないか?」
やはり言葉を発したのは、先ほどまで話していた女性だった。
「なぜでしょう?あなた方にそのような権限があるとは思えませんが?」
少し怯えるような仕草でそう返しておいた。
冒険者は血の気が多い者が大半である。ここで挑戦的な物言いをしても間違いではないだろうが、下手をすると乱闘に発展する可能性があったため様子を見ることにした。
「これは失礼。」
彼女はそう言って自らの冒険者証を提示し、それとなく裏面の紋章を見せてきた。
紋章はふたつあり、それぞれに執行官の職務と裁定者の有資格者であることを表している。さらに裏面全体の色目で冒険者ギルド本部所属であることもわかった。
俺は周囲の注意を引いていないことを確認してから、自分の冒険者証の裏面を見せて返答する。
「本部のご同業か。」
彼女は驚きに目を見開いた。
「目立ちたくはない。明朝、冒険者ギルドで話さないか?」
俺の言葉に彼女は頷き、同行者と共に立ち上がった。
「あ、あの···エールをお持ちしましたが。」
バッドタイミングでウェイトレスが木製ジョッキを手に現れた。
「すまない、急用を思い出した。彼が代わりに飲むそうだ。」
そう言って代金を机の上に置いて彼女たちは去って行った。
いや、4杯もいらないよ?
お腹タプタプになるでしょ。
「飲む?」
目の前にいるウェイトレスにそう言ってみた。
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