第54話

意識不明から数日で死亡か。


鉛中毒は認知障害などの不可逆的作用に至る。今回の場合は鉛が原因ではないだろう。銀食器を用いているとすると、ヒ素でもないということになる。


何らかの毒が原因で誰かが犠牲になったとしても、俺の職務に直接関わるとは限らない。


今の俺は冒険者ギルドの執行官である。


冒険者やギルド職員が関与する犯罪や、不正を取り締まることが主な職務なのだ。


しかし、同じような事例が複数の地域で連続しているというのは気になった。


この世界では科学捜査の類は期待できない。それ故に、未知の毒物を使った暗殺事件とも考えられるのだ。


そしてその想像が正しければ、未知の毒物を取り扱う者の正体が気になる。


こちらで使用される毒物で主流なのはヒ素かトリカブト、ドクニンジンだったと記憶していた。それ以外にもキョウチクトウなどもあるが、致死性や即効遅効性を考えるといずれも合致しない気がする。


詳細がわからない状況であれこれ考えてもしかたがないのだが、この件が暗殺事件だとすると犯人は俺と同郷・・である可能性が出てくるのだ。


元の世界の人間の方が、毒物や毒性をもった動植物の知識が豊富なのは疑う余地がない。


詳しい精製方法は別として、インターネットで検索すれば素人でも様々な毒のことを簡単に知ることができるのだ。


まして、軍やそれに関連する組織などに属していた者なら、それらを実用化することなど容易いといえるだろう。


この件に関して明日にでもカレンに聞いてみようかと考えていると、この店では見慣れない風体のグループが入って来た。


皆が一様にローブを身にまとっているが、いずれもそれなりに高価な素材である。


冒険者なら資金に余裕のあるパーティーかクランといった所だろうが、店内に走らせる視線を見て違うと感じた。所作に品性を感じるのである。


貴族やその従者といったところだろうか。この店にはそぐわない雰囲気だった。


視線が合わないように、木製のジョッキを掲げてエールを飲む。


剣呑とまではいかないが、少し尖った印象を放っている。


「いらっしゃいませ。」


ウェイトレスがすぐに近寄りオーダーを取ろうとした。


「エールを人数分、それと少し話を聞きたいのだがかまわないか?」


「あ、はい。先にオーダーを通しますね。マスター、エールを4つお願いします!」


「あいよ!」


オーダーを入れたのは真ん中にいる細身の人物だった。


少し低めだが、声からすると女性だろう。



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