第41話
「こちらはふたり、それに実力も上だと思うのだけれど。」
ミューフはあくまでマウントを取りたいらしい。
「俺に何を期待しているのかは知らないが、敵愾心を煽りたいのなら悪手だと思うぞ。消したいならアドルにはいくらでもチャンスがあったはずだ。しかしそれはしなかった。ということは目的は別のところにある。違うか?」
その言葉でミューフは沈黙した。
彼女たちが欲しいのは情報、もしくは共闘できる仲間ではないかと思える。
ただでさえバルドル人という協力者を得にくい立場にいるのだ。俺と同じようにこちらの世界に送り込まれたのなら、秘密を共有し必要に応じて協力できる相手は欲しいはずである。少なくとも俺はそう思う。
「わかったわ。では本音で話すわね。」
ミューフがそっと息を吐き、それまでのとげとげしい雰囲気が霧散したかのように思えた。
それが素のものか演技かはわからないが、ようやく対等な立場で話ができるようになったらしい。
アドルは物腰や身のこなしから推測するに、おそらく職業軍人か諜報に身を置く秘密工作員の類いだろう。どちらかといえば過去の自分に近い部類の人間なので何となく通ずるところがあった。
対してミューフははっきりとはわからないが、分析官の類いだというのは大きく外れていないと思う。
それが情報なのか心理なのか専門分野は今のところはわからない。ただ、これが俺と同じように与えられたミッションだというならば、状況を推察し安全保障に関わる動向分析を行う情報分析官の可能性が高かった。
因みにアドルがMI6だとすると、ミューフは分析や評価を主とする
ただ、彼らが現役である場合、こちらの世界に送り込まれた理由に興味がわいた。
俺のように税金や借金のカタで送り込まれたロートルとは訳が違うのである。
それとも、国際感覚が激しくズレているあの国なら、元海兵隊員を送り込んでおけば体面上は問題ないとでも思ったのだろうか。有り得る話で怖い気もしたが、そんなことをいくら推察しても真実かどうかは照合のしようがなかった。
詳しい話を聞く前に、俺は貴族の放蕩息子がどうなったかを確認するために現場に戻ることにする。
双子は俺の身辺調査をする一環でこの場に居合わせたという。
事後処理に関しては何もする気はないが、マオルヴルフかグレイヴワームがきれいにかたづけてくれているかどうかを確認したかったためそう伝えた。
「その件に関しては興味はないわ。」
ミューフが即答したため、そこでふたりとは一旦別れることとなった。
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