第42話

「それはひどいわ。極東だとみんなそうなの?」


俺がこちらに来た経緯を話したときのミューフの第一声だ。


街へと戻り、冒険者ギルドの個室を借りて再び双子と対面した。


ドアには鍵をかけ、据え付けの魔道具で話し声が外に漏れないよう対処する。こういった魔道具は個人ではなかなか用意できるものではなく、そういった面で冒険者ギルドの個室が使えるのはありがたかった。


因みに極東とはヨーロッパから見て東や東南アジア、ロシアの一部のことを指すが今回の場合は日本のことをいっている。


「現役でもない俺が人選されたのは個人的にも思うところがないわけじゃない。だが、俺のような境遇の人間は稀だという事情もある。」


日本は島国だ。陸続きで常に他国と折衝や争いを行ってきた国々に比べて、国際的なセンスや交渉において後進国だといえる。それに自衛隊はともかく、海外の軍隊上がりの人間などほとんどいない。


「私が言っているのはそういうことじゃないわ。あなたはそれで割り切れたのかもしれないけれど、置いてかれた家族はどう思うのよ?」


どうやら、ミューフは家族に対することを言っているらしい。


そういえば、イギリスは伝統的に核家族社会だといわれていたが、最近では三世代同居などが増えていると聞いたことがある。


「姉さん、俺たちはナオのように結婚して家族がいるわけじゃない。あまり踏み込むのは良くないと思うけどね。」


今のやり取りでなんとなくだがこのふたりに好感を持ってしまった。


彼らは物事をストレートに言うが、人として間違ったことは言っていない。


そして家族や人を思いやる人間性を感じられた。


「ふたりは元の世界でも双子だったのか?」


「ええ、そうよ。」


「彼に話してあげたらどうだい?今後のことを思えば、こちらだけ一方的に聞くのも良くないだろ。」


「そうね···あなたは北アイルランド問題のことを知ってる?」


イギリスはイングランド、スコットランド、ウェールズ、そして北アイルランドで成り立っている。


その北アイルランドを巡る領土や地域紛争、教派分離に対する反対運動のことが北アイルランド問題である。


様々な定義があるが、民衆暴動や治安組織の暴力行為などが過去に何度となく起こった。


「一般的なことくらいまでなら知っている。」


北アイルランド問題は門外漢からすれば容易に語れるような問題ではない。


「私たちの祖父がそれに関わっていたのよ。」


「なるほどな。」


それで理解した。


彼女たちは国に仕えていたが、身内に北アイルランド問題に関わった者がいたと発覚し立場を悪くしたのである。


極めて簡単に説明すれば、警察官の身内に犯罪者がいたというようなものだ。民族や宗教にも関わることのため、どちらに正義があったと断ずることは難しい。しかし、国家の治安部隊からはテロとして見なされている。


「私たちは国への忠誠と身の潔白を明かすために自ら志願したのよ。」


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