第39話
それほど土地勘のない山中を勘と経験だけで駆け抜けた。
急斜面を転がり落ちるような速度で駆け下り、草木があたるのを気にせずに全力で走る。
あの銀色の奴が何者かはわからない。
印象からして貴族の放蕩息子の仲間とも思えなかった。
しかし、特異な装いと桁違いの身体能力を見せられては無視することはできない。
奴はきっと俺に何か関わりがある。
元の世界から送り込まれたのか、こちらの世界の任務と関係があるかのどちらかだろう。
木々の合間に斜め前方を走る銀色の存在を認めた。
相手もこの辺りに土地勘がないのが幸いしたのかもしれない。知っていればもっと巧妙な逃走経路を選んでいたはずだ。
いや、これはもしかすると···
視野が狭くなり、思考が偏っていることにはっとした。自分の勘違いだった場合、間違いなく窮地に陥るのは俺だ。
そう思った時には遅かった。
急に視界が開け、そこには見知った顔がいる。
そして斜め前方には、一度駆け抜けて反転する銀色タイツの男がいた。
どうやらつかず離れずで誘導され、術中にはまった馬鹿は俺の方だったようだ。
「誰、この人?」
その女性は、銀色タイツの男に俺を指し示しながらそう言った。
「あの男だ。」
「嘘···こんな髪型だった?」
バーコードハゲの装いは、ある意味で成功しているようだ。ただ、ふたりの会話を聞く上では、もうこちらの正体はバレているのだろう。
「その銀色全身タイツの変態は君の弟か?」
そう、彼らはバルドル人の双子である。
「奇妙なコムオーバーヘアのカツラを被っている奴に、変態などと呼ばれたくはない。」
弟のアドルがそう言いながら、耳たぶのあたりを触る仕草をした。
魔道具なのか何かのトリックかはわからないが、全身タイツ姿から以前に見た装いに一瞬で変貌する。
そして、その耳たぶにはピアスがあった。
そこでいろいろと理解が加速する。
ふたりが何者なのか、なぜ俺に接触してきたのかなど。
「あまり驚いた顔をしないのね?」
姉のミューフがそう言った。
「ドッキリでもしたかったのか?」
俺がそう返すと、アドルが少しムッとした顔をして答えた。
「これは遊びじゃない。あんたの正体を見抜くために···」
「アドル、質問は私がするわ。」
ミューフがそう言うと、アドルは仕方がないといった仕草で頷いた。
「さてと、あなたの正体と所属チームの名称を教えてもらえるかしら。」
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