第38話
それから三時間以上が経過してようやく状況が動いた。
あと二時間もすれば催眠効果もなくなるため、別の手段も考慮していたのだがうまく動いてくれたようだ。
遠目に地表が蠢くような動きを見せたかと思った直後、テントが突風にでもあったかのように吹っ飛んだ。
マオルヴルフかグレイヴワームが集まって来て、そこにいる
後は放っておいても問題はないだろう。
明け方以降に誰かが現場を発見し、そこで起きた惨劇をそのまま吹聴すれば今回の件はほぼ終わる。
貴族の放蕩息子が行ってきた非道が白日の下にさらされるとまではいかないが、これで父親が誰かを糾弾することもないはずだ。
これはあくまで事故なのである。
魔物を狩るために持ち込んだ過剰な誘引剤が漏れ出し、想定外のタイミングで魔物を誘き寄せて食われた。
ただそれだけのよくある事故として処理されるだろう。
そう思いながら、たまたまでも生き残りが出ないかを確認するため、状況を見守ることにする。
しばらくして、不意に他の者の気配を感じた。
すぐに気配のもとである後方へと視線をやると、月の光を全身で反射させる何かが走り去ろうとしているのが視界に入る。
俺は反射的にその存在を追いかけた。
もともと二十メートルは離れた位置にいたそれは、人とは思えない速さで駆けていく。
人の形はしているが、全身が銀色で驚異的なスピードと相まって人外にしか思えなかった。
ふとした瞬間に相手の頭部を別角度で見ることができたのだが、髪の毛どころか目や鼻などはなく、魔物というよりも妖怪の類ではないかと思ったほどだ。
いや···冷静に見れば、確かに人間のようにも見える。
ああ、そうだ。
まさかこんな所にはいないだろうという固定観念が、思考を鈍らせていただけかもしれない。
そう、奴は見れば見るほど銀色の全身タイツを着た変質者にしか見えなかった。
この世界の人間なら間違いなく人型の魔物認定をしていたのだろうが、俺にはその姿が昔のTVCMに出てきた炭酸飲料のヒーローに映ってしまったのだ。
なぜここに!?
という思いと、俺をこちらに送り込んだ奴らなら、有り得ることかもしれないという感情の板挟みとなった。
そして、さらに加速したその銀色の何かは、俺の追跡を簡単に逃れて姿を眩ませようとしている。
俺は勘で脇道へと入り、大雑把な予測のもとで先回りを試みた。
そしてふと思う。
全身を銀色のタイツで覆われた奴を追っているのは、バーコードハゲの髪をなびかせた黒づくめの男なのだと。
目撃者がいれば、どちらも怪しさ満点に違いなかっただろう。
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