第37話

鱗粉の粉袋を放り込んでから見張り役のふたりもテントに押し込んだ。


様子を見る限り起き出す者はいなかったため、奴らの馬車の方へと行き荷車の中身をチェックする。


どうやら目当ての物は手つかずで積載されているようだ。


俺は目的だった樽を肩に担ぎ、テント近くまで移動させた。全部で二樽だが、明らかに過剰な量である。


これにはある液体が入っており、栓をしているとはいえわずかに臭った。


劇薬の類ではないのだが、強く臭いを嗅ぐと吐き気をもよおすため口で呼吸するようにしている。


奴らの動向を探る過程で判明したのだが、狩りのために大量に仕入れたようだ。これは簡単に言うならば魔物を誘き寄せるための誘引剤である。


魚釣りでワームをエサとして用いる場合、魚は見た目だけでなくその臭いに誘き寄せられるというが、これはそれと同じ習性を利用したものだ。


マオルヴルフの大好物はグレイヴワームである。


樽の中の液体はそのグレイヴワームの体液などが含まれており、ワーム好きな魔物を誘引するのだ。


取り扱いを間違えれば危険な物ではあるが、畑を荒らす害獣を駆除するためや特定種の魔物を罠に誘引するのが本来の使用用途である。


それをこれだけの量仕入れたとなるとマオルヴルフを本気で討伐したいのだろうとも思えるが、いささか過剰だというしかなかった。


ただ、この大量の液体は俺にとって好都合だ。


樽の栓を抜き、ひとつはその場で中身をぶちまけておく。もう一樽については、こちらも栓を抜き野営地を中心に時計回りに外側へと転がしていった。


自分の体が液体で濡れないよう細心の注意を払いながら、樽が空っぽになるとその場から離れることにする。


野営地を見ることのできそうな高台へと移動し一息ついた。


野営地は魔物や獣の動線から離れているとはいえ、土質が比較的柔らかいためグレイヴワームやマオルヴルフのテリトリーだといえる。


土中で活動する魔物は、地表のそれとは違い狭い範囲を縄張りとはしない。エサを求めて縦横無尽に動き回り、数十キロメートルにも及ぶ範囲で動き回るのである。


マオルヴルフがグレイヴワームの臭いをが嗅ぎ付けて寄ってくるか、グレイヴワームが仲間が集っていると勘違いして寄ってくるかを期待した。マオルヴルフと同じように、グレイヴワームは仲間の臭いを感じると集まろうとする習性があるのだ。


ともに肉食で人を食べようともする。厳密にいえば雑食で大食らいのため、そこに食料があれば決して放置してはいかない危険種だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る