第27話

「無事で良かったわ。」


カレンが軽く笑みを浮かべてそう言った。


「特に何も起きなかった。馬車もすぐ拾えたしな。」


そう言いながら空いている席へと座る。


カレンがすぐにお茶を入れてくれた。こういったさり気ないところに女子力を感じる。


普段の彼女は男勝りだが、プライベートでは甲斐甲斐しいところをよく見せてくれた。特にあのときは···いや、今はそんなことを思い出している場合ではなかった。


「二人には事情を聞いた。あなたの報告通りでほぼ間違いないわ。それから、二人が話をしたいそうよ。」


「話?」


改めてお礼でも言われるのだろうか。


「ナオさんで良かったかしら?」


「ああ、そうだ。」


今の俺はフードをかぶっていない。


素顔をそのままさらしているわけだが、カレンがそんなことを予想していないはずがなかった。ということは、俺の素性も話している可能性がある。


それを踏まえて話というのは何だろうか。


思いあたることがないわけではないが、黙って双子の話を聞くことにした。


「私はミューフ、隣にいるのは弟のアドルよ。まずはお礼を言わせてもらいます。窮地を助けてくれてありがとう。」


「どういたしましてと言いたいところだが、前にも言ったようについでだ。あと、感謝してくれるなら俺のことは誰にも話さないでいてもらえるとありがたい。」


「それは心得てるわ。恩人にはちゃんと報いる。私たちバルドル人は巷ではいろいろと言われているけれど、義はしっかりと重んじる。」


それを聞いたナオは屈託のない笑顔を見せる。


「なら、安心だ。」


ミューフとアドルはその表情を見て面食らった。


あの冷静で無駄のない動きを見せた冒険者と本当に同一人物かと感じてしまったのだ。


カレンにあらためて紹介されなければ、素顔をさらして歩く彼を見ても気づかなかったに違いない。


やはり只者ではないと思いつつも、目の前の笑顔が作り物めいたものではないことにちょっとした戦慄を覚えたくらいだ。


この男は本物のプロだと双子はそれぞれに感じたのである。


「それで、話というのはお礼のことでよかったのか?」


「いいえ。実はあなたにお願いがあるの。」


「とりあえず、話だけなら聞く。無理ならすぐに断るが、それでかまわないか?」


「ええ、問題ないわ。」


ミューフは姿勢を正して本題に入った。



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