第28話
「余計なことをしたかしら?」
カレンが少し申し訳なさそうな顔をした。
ミューフとアドルは既に退室している。
「そうでもない。君が俺のことを思って配慮してくれたのはわかっている。」
カレンはあの双子を俺の専従者にしたかったのだろう。
一般的な冒険者とは違い、あのふたりはバルドル人という微妙な立場にある。さらに俺への恩義も感じていることから、候補としては申し分ないと考えたというのもわかった。
「それならいいけど···」
俺の名前や素顔まで明かしたのは軽率だったと反省しているのかもしれない。
確かに他の冒険者だったならそう思ったろう。
「彼らは他から孤立している。それに人間性は問題なさそうに思う。だから断らずに保留したんだ。」
「そう言ってもらえるなら気が楽だわ。」
「カレンには感謝しているよ。今は先にかたづけるべきことがあるから、その後にちゃんと考える。」
今は今回の人拐いの件について先に解決する必要があった。
俺はカレンと情報を共有し、今回の件についての背景を確認する。
「バックにいるのが少し厄介だな。」
「あなたが尋問した冒険者の証言と一致するからほぼ確定ね。どう対処すべきかが問題だけど···」
今回の人拐いについては他領の貴族が絡んでいた。
正確には貴族家の子息が人身売買に手を染めていたようだ。爵位継承権のない四男が放浪先で旅の資金源としてその地の女性を拐い、隣国の奴隷商に売り渡しているのが元凶なのである。
相手が商人などであれば国や領主に届け出れば終わりだが、貴族出身の人間が絡むとするといろいろと厄介だ。
しかもこの地の領主よりも実家の爵位は上となる。相手は侯爵、こちらは伯爵ということで、本人は爵位を持たないとはいえ直系の者を捕縛するのは難しいだろう。
「その貴族の息子はこの辺りにいるのか?」
「ええ。その人は魔物を狩ることを生き甲斐にしているそうよ。定期的に滞在先を変えて、その地にしかいない魔物を狩るみたい。そのついでに権威を利用して、冒険者などを雇い入れ人を拐っていると聞いたわ。」
「なるほどな。俺が聞いた話ではそこまで詳しいことはわからなかった。あの冒険者は貴族の放蕩息子が趣味のついでに滞在先の女性を拐って私服を肥やしているとだけ言っていた。それが侯爵家の四男とはね。」
人を人とも思わない馬鹿野郎だ。
「領主様やこの都市の衛兵では難しい案件ね。」
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