第26話

早々に通りがかった馬車に相乗りさせてもらうことができた。


スピードは出ないが、暗くなるまでには街に戻れるだろう。


「兄さん、冒険者かね?」


「ええ、まあ。」


「荷物が少ないようだけど、依頼に失敗かい?」


「依頼というか、ちょっと下見に来ただけですよ。」


「ああ、なるほど。だからこんな早い時間に街へ戻るんだな。」


適当な受け答えをして、あまり印象づけないようにしておいた。


御者をやっている男が盗賊や犯罪組織の仲間とは思えないが、どこでどう絡むかはわからない。


思えば、俺はずいぶんと窮屈な生活をしているものだ。


ひとつところに留まることができれば、ギルド職員にでもなって安全を確保しながら活動ができるのだがそうもいかない。


冴えない冒険者を演じることはそれほど苦ではない。ただ、誰かがそういった噂話をすることで、余計な広まりが起こることは避けなければならない。印象というものは、ちょっとした出来事で大きく変化したりするのである。


今でも冒険者ギルドの内部から漏れる心配はあるのだが、そうなれば開き直って演技をやめるしかない。ただ、それまでに専従者なり信頼のおける仲間を作っておくことは必要だろう。


辺境の地ではもっと殺伐としていた。


あちらで活動を行っていた終盤は、正体がバレて何度か命を狙われたことすらある。しかし、そのときには既に領主の辺境伯爵に恩が売れていたので命を落とすまでには至らなかった。


こちらでも似たような支援者を探す必要はあるだろうが、今すぐには難しいだろう。


とりあえずは目先のやれることを地道に行い、カレン以外の人間にも信用を得ていく必要があった。




街に到着して早々に冒険者ギルドへと向かう。


あの後、捕縛した奴の事情聴取から何かの証言が取れていないか聞くためである。


西の洞窟で口を割らせた冒険者の話は証拠にはならないが、それをカレンに伝えて照合していくことで次の動きに出るしかない。


「ナオさん、おかえりなさい。」


受付嬢のジェミーだ。


ライラは他の者について研修を受けているようだった。


「ただいま。ギルドマスターに取次ぎをしてもらえないかな?」


「はい、話は聞いています。中にお入りいただいて直接ギルドマスターの執務室を訪ねてください。」


さすがにカレンの仕事に隙はなかった。


前回と同じようにカウンター内へと入り、上階へと上がっていく。バルドル人の双子はかなり前に戻って来ているだろう。その足でカレンを訪れたなら、もうここにはいない可能性が高かった。


ドアをノックして名前を告げる。


「どうぞ。」


カレンの声がしたので入室すると、手前のソファーにはまだ双子がいた。


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