第25話
残虐な拷問が行われると思ったミューフとアドルだったが、驚くほど簡単に口を割る冒険者たちに呆気にとられてしまった。
おそらく、目の前の男はそういった手法に長けているのだろう。躊躇いもなくリーダー格の男の命を奪い、他のふたりの心を折ったのだと思った。
「それですべてだ。」
「わかった。」
尋問を終えた後、男は再び二人の冒険者を昏倒させた。
「今の時間だと、まだ街道で馬車を拾えるだろう。二人は俺が乗って来た馬で街まで帰るといい。」
男の言葉に疑問を持った。
「あなたが馬車で帰るというの?普通は逆でしょう。」
「言い方は悪いが、バルドル人ということで乗車拒否される可能性があるだろう。だったら俺が馬車で戻る方が合理的だ。思ったよりも早くに片付いたから夜までには戻れる。」
「馬は冒険者ギルドのものなのか?」
「そうだ。ついでに返しておいてくれ。あと、ギルドマスターに取り次いでもらって、ここでのことを証言すれば悪いようにはされない。全部俺に頼まれたと言えばいい。」
そう言って、簡単なメモ書きをして渡しておいた。
「どうしてここまでしてくれるの?」
「関わった限り、やれることはしておきたいだけだ。おまえたちのためというより、主に俺の心の平穏のためにな。」
恩きせがましく、そして偽善者のように「おまえたちのため」と言われるよりも、よっぽど信頼できる気がした。
「わかった。ありがとう。」
「名前を聞いておいてもいいかしら?」
「こういった仕事は悪党から恨まれるから正体は隠している。何か用事があるならギルドマスターを介してくれ。」
そう言われてもミューフはしつこく名前を聞こうとした。しかしそれをアドルが妨げ、「早く行こう」と促した。
「ねえ、あの人···」
「ああ、可能性はあるかもな。ただ、名前を言わないのは自分を守るためだよ。初対面の相手に話せるほど気楽な仕事でもないってことさ。」
「···ギルドの職員ってわけでもなさそうだから、ああいった荒事を専門にしている冒険者ってことだよね。」
「もしくは執行官というやつかもしれない。」
「そっか、だから正体を隠すためにフードを目深に被っていたのか。」
その後、二人は顔を見合わせ頷きあった。
「とりあえず戻ろう。彼のことはギルドマスターに聞いてみる方がいいかもしれない。」
「協力してくれると思う?」
「どうだろう。でも、ダメでもともとだろう?」
「そうだね。」
双子の気配が遠ざかった頃合に、意識を失っていた冒険者二人の命を奪っておく。
このまま街に連れ戻すのは面倒だし、生かしておくと敵を増やしかねないからだ。
好んで殺人を犯したいとは思わないが、こういった奴らは魔物と同じだと認識している。
三人の冒険者だったものは洞窟に運び入れて放置しておいた。そのうち中の魔物が処分してくれるだろう。
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