第23話

「閉じ込められた!?」


前方にある通路二箇所からは魔物の気配が迫ってきていた。


この場所には他に隠れるような場所はない。


「姉さん、あれだよ。ここに魔物が来るように設置していきやがった。」


アドルが指差す方を見ると、小さな壺のようなものが物陰に置かれていた。


「あれって···」


魔物を呼び寄せる魔道具だ。


こういった場所やダンジョンで敵を一ヶ所に誘き寄せて逃走するための魔道具で、それほど高価なものではなかった。


理由はわからないが、やはり仕組まれた罠だったようだ。


「こっちだ!」


万事休すかと思われた状況で、前方の通路からひとりの男が現れた。フードを被っていて顔は見えないが、ここまで一緒に来た冒険者ではない。


すぐにアドルとともに攻撃態勢を取る。


「助かりたかったら早くしろ。この後ろに魔物が迫ってる。」


意味がわからなかった。


その先には魔物がいるのに、なぜこちらへ来いなどというのか。


「この先は二手に分かれていて、一方はその結界が張られた通路の先につながっている。俺はそちらから来た。」


「信用すると思うか?」


アドルが警戒を顕にする。


「信用なんてどうでもいい。ここで死ぬか俺に賭けるかだ。」


男はそう言って踵を返し、奥に入って行った。


「アドル、行こう!」


結界が破れない限り、ここで戦うのはリスクが高すぎた。


いくら身体能力が高くとも、この狭い空間では思うように戦えない。ゴブリンの体が小さいのは、このような空間で生活する上で適した大きさだからだといわれている。


奴らのテリトリーで数でも不利な状況では、逃走を選択することが最適解でしかない。


双子は男の後を追って走り出した。


先へ進むと通路の分岐点で男が待っている。一瞬こちらに視線をやった後で、何かを取り出して声を浴びせてきた。


「魔物の動きを牽制する。ここを真っ直ぐに行けば出られるから、後ろを振り返らずに先を急げ。」


「信用できない。背中を見せるとでも思っているのか?」


アドルは思ったことをストレートに言う。


助けてくれようとはしているが、それも何かの罠かもしれないのだ。


「わかった。これに火をつけて投げ込んだら俺が先に行く。この袋には硫黄が入っているから煙は吸うなよ。」


男はそう言いながら、袋に火をつけて奥へと軽く投げ込んだ。


指先から出た火は攻撃に使うものではなく、生活魔法の一種である。


油でも染み渡っているのか、袋はすぐに燃え上がり青い炎を吹き出した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る