第19話
声で誘導すると、しばらくしてから怖々と梯子を上ってくるひとりの女性がいた。
「もう大丈夫だ。」
できるだけ優しく微笑みかけると、その女性は嗚咽するように泣き出した。
落ち着くまでしばらく待つ。
そういえばドラクンクルス・ブルガリスの悪臭が漂っているが、腐乱死体でもあるのかと思う者がいるかもしれない。奴らの仲間が他にも来るかもしれないことを考えると、早めに切り上げた方がいいだろう。
「下にはあと何人いるんだ?」
「あと四人···います。」
「みんな無事なのか?」
「はい。」
「すぐにここを出て冒険者ギルドで保護してもらうから、四人を呼んでもらえないか?」
「わかりました。あ、あの···。」
「どうかした?」
「この臭い···誰か死んでいるんですか?」
ドラクンクルス・ブルガリスの腐敗臭に加えてわずかに血の匂いも漂っていた。
「気にしなくていい。食べ物が放置されていて傷んでいるだけだ。」
俺はそう言っておくことにした。
あまり目立ちたくないので、バンダナで顔半分を隠したままフードを目深に被った。
とはいえ、泣き腫らした顔の女性五人を連れ、さらに大きな麻袋を肩にのせた俺が目立たないわけがない。
上衣はリバーシブルのため、裏返して普段とは違う色にしている。顔も一見したくらいではわからないだろう。あとはこちらに集中する視線を跳ね除けるために、少し横柄な歩き方をして薄らと殺気を漂わせておいた。
後ろからついてくる女性たちの緊張が高まった気がしたが、不特定多数の者に俺だと認知されてしまうと今後の仕事に響くため仕方がない。
「こいつらの仲間が寄ってこないように剣呑な雰囲気を出している。君たちを無事に冒険者ギルドまで送るためだから少し我慢してくれ。」
効果があるかわからないが、念の為にそう言っておいた。
すぐに彼女たちの緊張がやや薄まった気がしたので効果はあったと思うことにする。
冒険者ギルドの裏口へとたどり着き、職員にカレンを呼び出してもらう。既にこういったことへの対応について伝達されているのか、冒険者証を提示するだけでことはスムーズに運んだ。
女性たちはベテラン受付嬢に誘導されて奥へと保護される。
俺はカレンの執務室へと行き、経緯を説明した。
「わかった。詳しいことは捕縛してくれた男に聴取するわ。現場の倉庫にもすぐに調査員を向かわせる。問題なのはバルドル人ね。聞くところによると、双子の姉弟だと思う。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます