第20話
「面識があるのか?」
姉弟という話は聞いていなかった。
「少し前にここでもめごとを起こしているの。冒険者として活動しているらしいけど、他所から来た他の冒険者に侮辱されて険悪な状況に至ったそうよ。職員が止めに入ったから大事には至らなかったけど。」
おそらく、差別的な言葉を浴びせられたのだろう。
「その侮辱した冒険者が連れ出したわけじゃないんだろう?」
そんなことをすれば目立ってしまう。
人拐いの犯人にするならリスクが増すだけだ。
「そうでしょうね。ちょっと待ってくれる?」
カレンはそう言うと、壁際にある書棚からファイルを取り出した。
業務日報か何かだろう。
特別なことが起これば、そこに報告を添えて職員から提出されるはずだ。
「ああ、これね。侮辱した側の冒険者は、その日にペナルティを受けて三日間の活動停止処分を受けている。だからすぐに拠点移動の届けを出して別の都市へと向かったそうよ。一応、長距離馬車の乗客名簿との照合も一致しているし、方角も東だから逆ね。」
こういったトラブルに対する記録や後追いは、どこのギルド支部でもやっているわけではない。
これもカレンが推し進めた業務改善によるものだろう。冒険者同士のトラブル回避や有事の際の調査のためには非常に有効だ。
「相変わらず有能だな。」
「ベッドではあなたに敵わないけどね。」
冗談か本気かわからない発言をする。
欲求不満かストレスが溜まっているのかもしれない。
「この件が片づいたら飲みに行くか?」
「いいわね。」
「まあ、さっさと片づくようにがんばるよ。」
そこから少し話して俺は冒険者ギルドを後にした。
冒険者ギルドの受付で馬を借り、西の洞窟へと向かう。
先ほどの現場は冒険者ギルドによって保全され、捕らえた奴の尋問からバックにいる奴が割り出されるだろう。カレンは聴取と言っていたが、これだけ状況証拠や証人か揃っていればそんな生易しいものでは済まされない。
そちらに関しての後始末は依頼があれば受ければいい。必要に応じて肉体か精神を再起不能にすることなど容易いことだ。社会的に抹殺するならそれはカレンの仕事となる。
今はまずバルドル人の救出が優先された。
この辺りに関する土地勘はない。しかし、南側に内海が広がり、東西には整備された道が延びている。
交易に用いられるため馬車の往来も激しく、馬で疾走するのに不自由はなかった。
カレンの話によると、ダンカという冒険者は他四名とともに馬車をチャーターして西へ向かったことが確認されたそうだ。
ダンカは何かの依頼を受けたわけではなく、都市の門兵や馬車の貸し出しを行っている交易所との情報共有によって足取りを知るに至った。
こういった所は冒険者による犯罪を取り締まる上でしっかりと体制が作られていることを物語る。前にいた辺境では、誰がどこに行ったかの後追いは冒険者ギルドの記録でしかたぐれなかった。
そのあたりの反省も踏まえて、カレンが他のギルドや窓口に渡りをつけたのかもしれない。
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