第17話
おそらく、未知の感染病を移されるという信憑性のない噂だと思う。しかし、例え襲ったとしても返り討ちにあうか、プライドの高さゆえに組み伏せても自害されてしまうのではないだろうか。
特有の病気というのは抗体の問題だと思えた。高山は気圧が低く空気も薄いため、生活環境の違いから低地にいるようなウィルスに感染しやすいのかもしれない。逆にその環境で生まれ育ったからこそ身体能力に優れているともいえる。
「しかし考えたな。バルドル人に罪をなすりつけて消してしまえば、一連の事件も詳しく調べられない。」
「ああ、人殺しが好きなバルドル人が人を拐って殺したということで終わるだろうよ。さすがボスだぜ。頭が回る。」
そんな会話を交わしながら、何がおかしいのか嫌な笑みを見せている。
こいつらが人を拐っているのはわかった。
それに放っておけば、バルドル人はこいつらの仲間に殺されてしまうだろう。
冒険者ギルドを出た三人の後をつけた。
特に依頼が出ているわけではないが、犯罪者の捕縛や討伐はそいつらの資産から何割かの報酬が出る。
さらに今回は冒険者らしき者たちがつるんでいるため、捕縛してギルドに突き出せばカレンの実績にもなるだろう。
バルドル人に関しては今は何とも言えない。しかし、うまくいけば恩を売ることができるかもしれなかった。
要するに、俺にとってはメリットが大きい案件だといえるのだ。
執行官というものは誰かに指示されたことだけをこなすようでは話にならない。自らが事件を嗅ぎつけてことが大きくなる前に対処しなければ、ひとりでは荷が重い仕事となってしまう。
対処が難しければ支援を頼むことはできる。しかし、それだと収入は棒給にしかならず、
港の方角へと歩いていく奴らを見て、倉庫街の方へと向かっていると検討をつける。
人を拐ったとは言っていたが、何の目的で誰を拐ったかまではわからなかった。だが、港近くの倉庫街ということは、もしかするとそこに攫われた者たちが監禁されている可能性が考えられる。
そこから連想するのは、木箱にでも入れて船で運び出すということだ。
人が拐われるのにもっとも多い理由は、人身売買を目的とした調達である。その場合、女性や子供を誘拐して風俗などに堕とすという在り来りのものが圧倒的多数といえた。
元の世界では身代金目的による誘拐が後を絶たない地域も少なからず存在したのだが、こちらの世界ではリスクが大き過ぎてそういった犯行は少ない。
多額の身代金が支払えるような相手は、しくじった場合にまず間違いなく命を狙ってくる。犯罪者には人権など存在しない社会情勢なのだ。当人だけでなく、身内にまで地獄を味わわせて生きてきたことを後悔させるのが常套なのである。
今回はまだ背景について掴めていないが、早々に潰してしまった方が世のためだろう。
ひとつの倉庫に入って行く三人を見送り、素早く周辺を調査する。
他に出入口はないようだが、レンガ造りのため地上から二メートルくらいの位置に通気口が設けてあった。
そこに手をかけて懸垂の要領で体を引き上げ視線を飛ばす。障害物で見えないが、声はかすかにこちらまで届いた。
「ダンカが戻ってきたら、ここの奴らを船に運んで出港だよな?」
「ああ、早ければ明日の夜、遅くても明後日だな。」
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