第16話
冒険者ギルド併設の飲食コーナーの席に座り、コーヒーと軽食を注文した。
朝食代わりに腹を満たせればいいと思って適当に注文したが、軽食は絶品だった。パンにハムとチーズをはさんだホットサンドのようだが、どちらかいえばフランスのクロックムッシュに近い。パンの表面にとろけたチーズがのっており、ナイフとフォークを使って食べるものだ。
コーヒーもコクがあって好みの味だった。ここは大きな交易都市のため、国内外問わずに様々なものが入ってくるのだろう。
加えて、カレンが冒険者の他拠点への移籍を抑止するために、胃袋を掴もうと腕のいい料理人を雇用したのかもしれない。
そういった手腕にも優れているのは知っていたが、ギルドマスターとなり辣腕を振るっていると思うと少しうれしくなる。
「さてと···」
腹を満たして本題の専従者候補を探してみるが、やはりなかなかそういった人材に出会うことはない。大っぴらに募集する訳にもいかないため難航するだろう。
昨日の今日では無理なことはわかっているが、今後の活動を考えると目星くらいはつけておきたいところである。
ふと、違和感を持った。
左斜め前に座っているグループから話声が聞こえなくなったのだ。
もともとそれほど大きな声で話していたわけではないが、習性のようなもので周囲の声はそれとなく拾うようにしていた。
口が動いているところを見ると、魔法で結界を張って周囲に話声が漏れないようにしているようだ。
足を組む動きをして体をずらし、彼らの顔ができるだけ見える位置へとさり気なく動く。
三人組なのでその内のふたりの顔は見える角度となった。
元の世界の経験で培った読唇術の出番だ。
何か怪しげな雰囲気というわけではないが、こういったケースでは重要な情報を得ることが多い。さらにいうなら、盗賊などとつるんでいる冒険者を見つける機会に恵まれたりもするのである。
「首尾はどうだ?」
「ああ、問題ねぇ。ダンカが例のバルドル人の双子を朝から連れ出して西の洞窟に向かった。昼頃には着くだろうよ。」
バルドル人というキーワードが引っ掛かった。
この国では比較的マシだが、バルドル人は他の国では差別の対象である。
魔法が使えない劣等人種といわれていることもあるが、百年ほど前に周辺の国々を侵略して大虐殺を行なった野蛮な者たちということで毛嫌いされていた。
彼らは優れた身体能力を持ち、近接戦闘による物理攻撃で魔物を屠ることのできる稀有な人種である。しかしプライドが高く、他の人種を容易に信じないところがさらに隔たりを作っているといえた。
さらにいえば、高山地域出身であるために平地では特有の病気になる者が多く、整った容姿にも関わらず性的な対象として見られることがほとんどない。
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