第14話

「武勇伝ってどんなの?」


ライラが言う武勇伝には興味があった。


あの一見して人畜無害そうなナオにそんな話があるなど想像もつかないからだ。


ライラはギルドマスターの顔をうかがい、話をしてもいいか確認する。


「簡単なものなら大丈夫だ。手短にな。」


「はい。えーと、私が聞いたのは、まず町外れにある盗賊のアジトに数体の暴れ牛を誘導して建物を半壊させ、暴れ牛が去った後に瀕死の盗賊にとどめをさして回ったというものです。」


暴れ牛というのは普通の牛よりも二回りくらい大きな体を持つ魔物である。気性が荒く、動いているものをみると手当り次第に突進して手に負えないといわれている。


「暴れ牛って、単体でランクC相当の魔物よね。去った後に近隣の街に被害はなかったの?」


考えるだけで恐ろしいことである。


暴れ牛の突進力はコーチと呼ばれる四頭立ての四輪馬車を一撃で吹き飛ばすほど強烈だ。そんなものが数体もいれば他にも被害が出ないはずがない。


「あれはあらかじめ毒を仕込んだ弓矢を暴れ牛に撃ち込み、全身に毒が回るタイミングを計ってのことだと聞いている。事後調査では盗賊のアジト周辺で三体の暴れ牛が死体で発見された。他に犠牲者は出ていない。」


答えたのはギルドマスターだ。


「状況を考えて暴れ牛を利用したということですか?」


「そうだ。アジトには盗賊が十数名、人質にされるような者はその場にいなかった。」


計画的に実行したということだと思う。


ただ、誘導に失敗していればどうしたのだろうかと、危険の高さを感じてしまった。現場を見ていないから何とも言えないが、随分と思い切ったことをするものだ。それとも、町外れとはいっても町の端ではなく、もっと誰もいない所なのだろうか。


「あと、町外れとはいっても実質はスラム街の中だった。よく犠牲者がでなかったなとみんな不思議に思ったものだ。」


「···そんな危ない手段をよく許しましたね?」


「ナオいわく、暴れ牛が街に侵入するのを見かけたから毒矢を放ち、被害が出ないか追って行くとたまたま盗賊のアジトだったと言っていた。証拠もないし、お咎めはなかったよ。」


それは本当に偶然なのだろうか。


「実際のところはそうだったんですね。私も現場は見ていませんが、あのときは建物が大破する度に周囲にすごい音が鳴り響いたと聞きましたよ。」


ライラが他人事のように言うが、普通なら冒険者活動を停止に追い込まれても仕方がない様なものである。



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