第13話

「ギルドマスターと仲が良さそうだから便宜を計ってもらった···というのはないでしょうし。」


「そうですね。ギルドマスターは贔屓などされないと聞いています。それに、昨日は私をナオさんが助けてくれたんですよ。」


「その話は聞いたけれど···やり方がヤバくない?」


先輩受付嬢のジェミーは眉をひそめてそう言った。


ライラにもその気持ちはよくわかった。


自分の腕を刺してへらへら笑う姿を見たときは、絡んできた人たちへの恐怖よりも戦慄が走ったものだ。


「それは目立たないためだろう。」


ナオの噂話をしていると、ふたりの後ろから突然声がかかった。


「ギルドマスター!?」


「感心しないな。見慣れない冒険者に興味を持つのはいいが、話をするなら中でやるべきだ。」


「「申し訳ありません。」」


「朝礼に出れなかったから伝えることができていないが、ふたりには先に話しておこう。他の者には後で話すから、その時はカウンターを任せるぞ。」




ギルドマスターの執務室に入り、ジェミーはふと思った。


いつもクールなギルドマスターの表情が、今日は穏やかというか上機嫌な気がする。


やはりこれはナオがこちらに来たせいだろうか。


以前のギルドでつきあいが長かったと聞くが、もしかすると男女の関係だったり···とても本人には聞けそうにない。


ただ、ナオは年齢の割に童顔で頼りない感じがする。ギルドマスターが惚れるような要素があるのだろうか。


背はそれなりに高かった。貴族出身の冒険者は総体的に上背があるが、それと遜色はない。しかしどことなく凡庸で印象につきにく存在なのである。


話した感じでは物腰が柔らかく教養もあると感じた。ただ、個性という面で確固たるものが見当たらないのだ。


「彼は殲滅者の二つ名を持つ執行官で、裁定者アビトレーターの資格を持っている。」


ギルドマスターの言葉にジェミーはハッとした。


殲滅者といえば組織犯罪、とりわけ拉致や誘拐絡みの依頼で驚くべき達成率を誇る冒険者である。これまで数多くの被害者救出や組織の壊滅を行い、その名を馳せている超重要人物だ。


さらに執行官とは、冒険者ギルド本部が任命する冒険者やギルドに関連する犯罪の抑止や撲滅、そして案件の対処を実際に行う司法職員だった。


中規模以上のギルド支部に配置されており、冒険者ギルド本部や支部責任者からの特命を受けて調査活動を行う特別職だ。


執行官になるためには冒険者としての一定レベルの実績に加え、高い教養と人格者であることが必須といえた。


他の職員のように試験や面接だけで入職できるものではなく、ギルドの上級管理職からの推薦と徹底した素行調査を経てから実技筆記の試験を通過し、さらに一ヶ月に渡る厳しい研修をクリアしたものだけが任命される。


彼らは裏方の職務でありながら高給取りのエリート職とされており、その中でも一割に満たない裁定者アビトレーターは独断による職務遂行が許され、必要とあらば逮捕や排除に関する権限すら有していた。


年齢や容姿などその正体は公にされておらず、普段は一般の冒険者に紛れて活動しているという。


ナオが執行官としてこの支部で活動を行うのであれば、ギルド職員としてはその立場を理解しておく必要があった。そして何気ない会話のようで、この事実には厳密な機密保持契約が発動される。


「あ、私知ってます!前にいたギルドではすっごく噂になっていたんですよ。数々の武勇伝から生きる伝説って言われてましたよね!?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る