第15話 セヘル・リッター
「ここらへんですか?」
「そうですね、
ナタリアを保護して数日が経ち、鹵獲品を置いてあるという倉庫までアウルを含めた五名で魔の森付近まで来ていた。
「カラミタ領で私達を保護して、よろしかったのですか? アルメデ教だと吸血鬼は即滅でしょ?」
「確かにそうですね。ですが、我々王国南部は神を信じますが教会は信じてません。奴らは毎回、全てが終わってからデカい顔をして金を巻き上げる。
あんな奴らが神の代弁者なら神は居ないのでしょうね。話が逸れましたが、教会の教えなど従うことはありえません」
「なるほど。権力の腐敗はどこでも起きますからね」
魔の森。面積はヘルト王国並であり、
「ここは昔、我がスルツカヤ家の領内でした。しかし、テラス・キマのような事象は無かったはずですわ。この森も野生動物は居ましたが、魔物は居なかったはずですし。分かりませんねぇ」
「イルドラード帝国時代にはテラス・キマは無く、それどころか魔物すら居なかったと…」
最低でもベルト王国が建国された時には既にテラス・キマは文献で確認されている。テラス・キマはナタリアが封印されてからベルト王国が建国される前までに何かが原因で始まった事象である。
「着きましたわ」
「ここって、グールの村だったよな?」
「はい。前回のテラス・キマ時に壊滅しており、グールの再発生も無かったので、放置されていますね」
「なんと、グール達は盟約を守り、ここを守り続けていたのですね」
ナタリアは村の中央まで行くと膝を折り、手を組む。そして、何かを祈るように呟く。
「暗黒の渦の中で、心を鎮める詩が響く
忠義ある臣下たちを、供に亡くなった者を弔う闇よ
闇よりの授かり者、心安らかに眠り給え
闇へと帰りし者たちに、静かな安らぎを」
村を包み込むように黒い魔法陣が広がっていく。教会は黒色を恐怖の象徴としているがナタリアが作り上げた魔法陣からは感謝と尊敬、悲しみが感じられる。
「突然、魔法を使ってしまい申し訳ありません」
「いえ、とても暖かく綺麗な魔法でした。どんな魔法なのですか?」
「鎮魂ですわ。ここには騎士と死して我が家に仕えると誓った
「鎮魂魔法ですか。素晴らしい魔法ですね」
「比較的覚えやすい魔法なのでお教えしましょうか?」
「はい、お願いします」
ナタリアが立ち上がると村の奥の方に歩き始めた。土に半分埋まった長方形の石の前で立ち止まるとアウル達を呼んだ。
「これですね」
「石ではないのですか?」
「そのような偽装と誤認魔法をかけております。では、解除しますね」
手をかざすと土と蔦は消え、石だった物は未知の素材で出来ている倉庫に早変わりした。そして、誰も触れていないにもかかわらず、扉が開いた。
「セキュリティも解除しておりますので、自由に見られてください」
「ありがとうございます」
アウルとアルディートが倉庫の中に入り、探索を始め、アマンダとフラルゴはナタリアを捕まえて、魔法について根ほり葉ほり聞いていた。
「これがセヘル・リッターか」
「そのようですな」
倉庫の奥に鎮座している一体の巨大な白銀の騎士。傍らには騎士と同じ色の大剣が置かれていた。
この世界の男子なら一度は聞くであろう魔法騎士の伝説。相違があるとしたら人のサイズでは無く、十m程度の巨人である。
「ナタリア様、セヘル・リッターは動きますか?」
「少し確認しますね」
アウルは博士達に捕まっているナタリアを呼び、セヘル・リッターが動くか確認をお願いした。
「システムと動力は生きてますね。各パーツも問題なく動きますね。オールグリーンってやつですわ〜」
「ありがとうございます。我々は動かすことが出来ないので、帰る時に動かして貰ってもいいですか?」
「はい、了解致しましたわ」
ナタリアと博士達にセヘル・リッターを任せて、アウル達は持って帰れそうな物資を集め、外に運び出した。
「残っている物は後に部隊を送り、回収させましょう」
「だな。ナタリア様ー 帰ります!」
「かしこまりましたわ〜」
ナタリアに帰宅を告げるとセヘル・リッターから声が響いてきた。先に博士達が出てきて、地響きを出しながらセヘル・リッターが出てきた。
「とりあえず、開発部の倉庫に行きましょうか」
「アイアイサー」
「ナタリア様は分からない言葉を話される時がありますよね」
「吸血鬼語かな」
四人と一機は開発部の倉庫に向けて、移動している内にナタリアと博士達は仲を深めており、今後は
アウルとしては、憧れていた魔法騎士が人助けの騎士では無く、兵器かつ大量生産されていたと知ったことで失望していた。
今回のセヘル・リッターの回収とナタリアの協力でカラミタ領開発部は大きな進歩を迎える。
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