テラス・キマ

第14話 招かざる客

「廃砦に賊が住み着いているだと?」


「はい。カラミタ領とピグロ領の間にある廃砦に盗賊らしき集団が住み着いているとカラミタ商会を始めとした商会から報告がありました」


「親父からも来てるのか。だが、被害報告は来てないだろう?」


「そこがおかしい点なのです。軍部、内政部の両方の情報を洗い直しましたが商会や村々からも被害報告はありませんでした」


「……分からない。アルディートに偵察隊を廃砦に送るように伝えてくれ」


「かしこまりました」


 ラウル川攻防戦から一ヶ月が過ぎ、南部貴族軍も帰還しており、カラミタ領も日常が戻りつつあった。


 しかし、正体不明の盗賊が廃砦に住み着いていると各商会から報告が上がってきていた。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「で、僕たちが派遣されたと」


「正規兵達は最低限の守備隊以外は交代で休暇を取得していますからアウル様達なら余裕があると思い、お願いしたしだいです」


「確かに。殲滅なら断るが偵察くらいならSRセヘル・リッターを使えば、被害が出ないからな」


「ご明察です」


 アウルはSR五機、歩兵三十名を率いてアルディートと共に廃砦に向かっていたが、ファルからの命令書さえ無ければ、研究所に引き籠もっていたかったと考えていた。


「見えてきたな。廃砦」


「確かに人の気配を感じますな」


「てか、畑がありません?」


「ありますな」


 廃砦のハズなのに人の気配もあり、挙句の果てに畑まである。想定外過ぎて、アルディートに敬語で話してしまっていた。


「バーク!」


「あい、旦那」


「お前は薬草に詳しかったよな?」


「母親が薬師をしてるんで、餓鬼の頃から採ってきたんで薬草どころか、毒草も任せてくだせぇ」


 砦の付近にある畑はどう見ても食用では無く、何かの薬草に見えた為、薬草に精通している隊員を偵察に向かわせた。


「アウルの旦那、あれはヤバいですぜ。あの畑で作られているのは依存性の高いものばかりで、裏で使われる薬の材料ですよ」


「やっぱりかぁ」


 人を襲わない盗賊、怪しい薬の材料を栽培している畑。アウルはもう嫌な予感しかしていない。


「SRはオネスト、歩兵隊は十名程を付いて来てくれ。アルディートはこの場で支援隊の指揮をお願い」


「「了解」」


 部隊を調査隊はアウル、支援隊はアルディートの2つに分け、砦の調査へと向かった。


「門や壁の上に見張りも無しか。砦の中にも畑。訳わかんねぇ」


「こんな砦は初めて見ました」


「俺もだ」


 歩兵が部屋の確認を行うが盗賊どころか人っ子一人居ない。


「アウル様! こちらに!」


「どうした?」


「地下室が作られております」


「SRでは入れないな」

 

 食糧庫に隠されるように地下への階段があった。人が一人、通るのがやっとであり、SRは置いていくことになる。


「地下室は完全に敵側有利だな」


「はい」


「このまま埋めてしまっていいのでは?」


「領主様にそのように報告が出来ますか?」


「無理」


 結局、個人の戦闘力が高いアウル自ら先陣を切り、階段を降りていく。


「なんだこれは?」


 地下室はまるでカラミタ領の研究所と同じような器具が並んでいた。


「もしや、薬の製造しているのか?」


「そのように見えますが人は居ませんね。もしや、我々が来ることが分かり、逃げたとかですかね」


「堂々と街道を歩いて来たからあり得るな」


 干乾びたパン、薬草の配合や効能の調査票などはあるが外で感じた人の気配が全くなかった。アウル達は粗方の確認が終わると食糧庫へ戻った。


「アウル様、二階に鎖で外から鍵がされている部屋がありました」


「了解。階段付近に見張りを一応、立てといてくれ」


 アウルはオネストから報告を受け、二階へ移動すると確かに鎖で厳重に施錠されている部屋がある。


「中に人の気配があるな」


「はい。しかし、生活感がありませんので中に居るのはゾンビのような人外の可能性があります」


「一理あるな。けど、吹き飛ばすわ」


 アウルはSRに装備されている大剣で鎖ごとドアを叩き壊した。土煙と共に悲鳴が聞こえてきた。


「何事ですわ〜 何事ですわ〜」


「お嬢様、落ち着いてぐださーい」


 土煙が収まるとドレスとメイド服を着た二人の少女がワチャワチャと部屋の中を走り周っていた。


 顔の血色は悪そうだが意識もはっきりとしている為、ゾンビみたいなモンスターでは無いとアウルは判断した。


「初にお目にかかる、カラミタ家嫡男アウル・カラミタと申します。よろしければ、お名前を伺いたい」


「これはご丁寧に、わたくしはイルドラード帝国スルツカヤ公爵家嫡女ナタリア・スルツカヤでございます。こちらのメイドは私の専属のマリア・ドロニナです」


「イルドラード帝国ですか」


「はい」


 アウルはナタリアの出身国を聞き、頭を抱える。イルドラード帝国は千年前に存在し、滅びた歴史上唯一の大陸統一国家である。


 更には王家を始めとして、伯爵以上の貴族は漏れなく、吸血鬼である。公爵家の令嬢ということはナタリアも吸血鬼の可能性が高い。


「ナタリア様。いくつか質問をよろしいでしょうか?」


「どうぞ」


「ありがとうございます。ナタリア様の種族は吸血鬼ですか?」


「はい。私は吸血鬼の中でも先祖返りで始祖の力を持っておりますわ。因みにマリアも吸血鬼です」


「かしこまりました。イルドラード帝国が滅びたことはご存知ですか?」


「やはり滅びてますか。私とマリアは私のお父様から柱に封印されてしまって、次に起きたらこの砦でしたわ」


「なんと、何故封印されたのですか?」


「神の軍勢とイルドラードで殴り合い戦争をしたのですが流石に負けてしまいまして、種の存続の為に若い世代を封印し、隠しましたわ。


 私も敵をボコボコにしてましたが、お父様のお願いには勝てませんでしたわ」


 うわぁ、聞きたくなかった。質問しなければよかった。神の軍勢と殴り合いとか頭がおかしい。しかも、神の軍勢をボコボコにしてたとか、化け物過ぎる。


「この砦で何をされていたのですか?」


「私達の封印を解いた方々とお薬を作っておりましたわ。最後は吸血鬼用の嗜好品のハーブを使ったお薬で狂ってしまいまして、最後のお一人が私達をこの部屋に閉じ込めて、何処かに行ってしまいましたわ」


「なるほど」


 その最後の一人が同士討ちをした仲間の死体を片付けて、何処かに消えたということだろう。


「これからナタリア様はどうされますか? よろしければ、我がカラミタ領に住まれませんか?」


「よろしいのですか! 私達は血の呪いは克服しておりますから安全ですわ」


「では、案内致します」


 ナタリアをエスコートしつつ、外で待機していたアルディート達と合流し、領都を目指して歩き始めた。


「アウル様は懐かしい魔導具を使われてますね」


「どれですか?」


「その鎧ですわ。戦っていた神の軍勢側の人族が使っていた魔導具に似ておりますわ。確か名は……」


「セヘル・リッター……ですよね」


「はい、それです。確か、近くに鹵獲品を置いていた倉庫があるはずですわ」


 物語のセヘル・リッターも兵器であったということも驚きだが、実物があるということなので是非とも今後の為に入手したいと考えるアウルであった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「アウル、もう一度言ってくれ」


「廃砦を調査した所、イルドラード帝国公爵令嬢のナタリア・スルツカヤ様を発見し保護致しました。

 その後、カラミタ領で生活することを提案した所、了承されましたので開発部の社宅にご案内致しました」


「イルドラード帝国ってことは吸血鬼か?」


「はい、ご本人にも確認しております。また、砦の賊も自滅していました」


 ファルに一連の過程を報告していたら、頭を抱えていた。伝説の存在が蘇り、自領に住み着いているなど問題しかない。


「管理はアウルに任せる。何かあれば、逐一報告しろ」


「了解です」


 報告を終えると後ろから大きなため息が聞えてきた。アウルもナタリアの生活の準備する為、内政部のリーフに会いに行った。

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