第12話 ラウル川攻防戦②
「ゴーレム起動完了! 術者も確認しました!」
「歩兵隊は所定の位置に移動後、待機。SR起動しろ!」
ファルから術者への襲撃を指示されてから、戦術を考えていたが
「敵陣の横断か。騎馬では術者を殺せても、死ぬだろうな。だが、SRの装甲なら問題ないはずだ」
「はい。心配なのは追撃ですな」
「策が嵌まれば、大丈夫と言いたいが初めての戦術だ。逃げ切れば、御の字だろう」
SRは
「さて、行くか」
「「了解」」
SR隊は森を飛び出し、全力で敵陣へと距離を詰めていく。目標はゴーレム術者五名。
「見えた、一人目」
SR隊がフルシュ軍を強襲するが組織的対抗は出来ずに蹂躙されていく。SRの突撃を躱しきれずに原型を留めていない馬や胴体を真っ二つにされ、臓物をぶち撒けている死体。SRに殺された者の亡骸は全て悲惨な最後であった。
「アウル様。最後の一人が見つかりません!」
「畜生め。どうするか」
四人目までは順調であったが、アウル達の目的が術者だと分かり、五人目はゴーレムを操作が出来る範囲で隠れてしまった。
「アウル! ゴーレムから魔力の糸を辿れば、操作してる人が分かるよ!」
「ありがとう、シオン!」
シオンの助言もあり、アウルは生き残っているゴーレムから出ている魔力を辿り、術者を見つけた。
「オネスト、術者が右の魔法使いの中に紛れてる。道を作れ」
「了解」
オネストが乗ったSRが術者を匿っている魔法使いの陣地に斬り込んだ。その様子はまるで草食動物の群れを襲う肉食動物であった。
「敵に同情しそうになるな。だが、逃さん」
一人だけ逃げようとしている術者を見つけ、アウルも飛び込んだ。
「や、止めろ。俺を殺したら、帝国が黙っていないぞッ!」
「知らねぇよ。人様の戦争にちょっかいをかけて、ハイそうですかで逃げられると思うなよ」
術者は無駄な命乞いをしたが、アウルは容赦無く首を刎ねた。最後のゴーレムも土塊となり、アウル隊の任務は終わった。
「全機撤退!」
「逃がすな! そいつ等は今ここで殺せ!」
アウルの撤退の号令とフルシュ軍の追撃の号令が響き渡る。
「集まっていない者は居るか?」
「全機居ます!」
「了解。では、計画通りに付かず離れずで移動するか」
アウル達を追うのは騎兵隊であり、更には馬上から魔法を雨のように降らしていた。この魔法騎兵隊はフルシュ軍でも精鋭の中の精鋭で切り札の一つである。
「回避を優先しろ! 反撃は考えるな!」
「「了解!」」
「7号機、被弾! 行動は支障ありません!」
「……耳長共め。七号機の周辺機体はサポートに入れ!」
森に入り、アウル隊が優位であるはずが攻撃を避けきれずに被弾する機体が増え、隊の限界が近づいている。アウルが呟いた耳長はフルシュ純国民の蔑称である。
「目的地点まで残り五十m!」
「全機、ここでの戦死は許さんぞ!」
アウルの激励が飛ぶ。今回の戦争に参加したSR隊は訓練中の兵の中でも上澄みであり、失ってはいけない兵であった。
「合流地点です!」
「負傷機以外は反転しろ!」
合流地点までに継戦能力が残っていたのは四機のみであったが、魔法騎兵隊の足止めの為に反撃を開始した。
「敵は連戦で疲弊している! 足止めの敵を駆逐し、残敵を追…え…」
戦場に乾いた音が響き、鉄の弾が魔法騎兵隊の隊長を撃ち抜いた。
「全隊自由射撃! SR隊に当てるなよ!」
「「了解」」
森の中に伏兵として隠れていた歩兵百名が立ち止まった魔法騎兵隊を銃で撃ち抜いていった。
「魔法障壁を展開しろ!」
「魔法障壁ごときで防げると思うなよッ!」
弾は障壁を貫通し、次々とフルシュ兵の命を奪っていく。
「畜生、副隊長! これ以上の被害は許容出来ません!」
「分かっている! 負傷兵を回収し、撤退する!
我に宿りし大地の精霊よ ブルシュア・フルシュの名において願い乞う 我が敵を阻む壁を作り給え」
魔法騎兵隊を囲むように壁が形成され、アウル隊の攻撃を全て弾き返した。
「チッ、撃ち方止め。壁内部を確認する」
アウルが壁の中を確認したが、既に魔法騎兵隊は撤退しており、人と馬の死体しか残っていなかった。
「敵軍の撤退を確認。我々も本隊と合流する」
「「了解」」
負傷者を確認後、戦利品として魔法騎兵隊の鎧を回収し、アウル達は初任務を終えた。
フルシュ軍はゴーレム術者の死亡及び魔法騎兵隊壊滅の報告を受け、ヘルト王国へ停戦を申し込んだ。
この一件により、SR及び銃のことはヘルトとフルシュ両国に広まり、開発者のアウルの名も知れ渡ることとなった。
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