第10話 戦争の足音
「爺様が急に来るなんて、珍しい」
「大体は悪い話よね」
急遽、サージがカラミタ領に来ると連絡があり、カラミタ家が集まっている。
「そろそろ来そうですね」
「来た!」
ドアが大きな音を出しながら開かれた。
「戦争が起きるぞ!」
「爺様、先ずは水を飲まれて一息疲れてください」
「はい、お祖父様。お水です」
ミラがサージに水を渡しそのまま、ソファーに座らせた。
「ヘルト王国とフルシュ聖樹王国だ」
「なるほど。東部貴族がしくじって、奴隷問題が再燃しましたか」
二百年程前にフルシュ国民の拉致が国際的に問題となり、拉致組織が拠点としていたのが、ヘルト王国とシリウス帝国であった。
ヘルト王国は犯罪奴隷以外を開放し、拉致組織を壊滅させ、被害者に慰謝料を支払った。だが、時折問題が再燃し、争いへと発展する。
「ファルの言う通りだ。スカサリ辺境伯やフルシュの西方貴族も物資を買い集めている。三ヶ月以内に開戦するだろうな」
「さて、ピグロ閣下がどのような判断を下すか分からいが、状況を確認しよう」
南部貴族を指揮するピグロ辺境伯の意向が強くなるが、東部貴族達との独自の付き合いもある。現状把握の為、カラミタ領首脳部が集められ、会議となった。
「カラミタ領軍の動員人数は百五十名前後と思われます。流石に東部貴族の尻拭いに貴重な兵を失いたくはございません」
会議が始まり、真っ先に口火を切ったのは、カラミタ領軍の大将を務めているアルディートであった。
口調の節々に棘があり、出兵を嫌がっているのが手に取るように分かり、ファル達も苦笑いするしかなかった。
「内政部も正直、出兵は控えて頂きたいですが、開発部のおかけで食料などの備蓄はある為、百五十名なら一年程度、活動可能です」
内政部を取り仕切っているのはリーフであり、元々辺境伯家に居たこともあって、高度な教育を受けていた。その知識を活かしてカラミタ領の台所事情を支えている。
「アウル。お前の手勢は?」
「はい。
開発部はカラミタ領の組織であるが、資金や人員は殆どがアウルの自費で運営されており、開発部に連なる試験部隊はアウルの私兵という認識であった。
「ピグロ閣下の判断待ちになるが、軍部及び内政部は百五十人を派遣する考えのもと、計画立案を行ってくれ。
SRや銃などの戦術は我々には分からない、少し早いがアウルは初陣だ。覚悟を決めろ」
騒がしかった会議室に静寂が訪れた。全員がファルを見つめていたが、誰も口を開けなかった。
「かしこまりました。人殺しの道具を作った以上、後方で結果を待つだけでは示しがつきません。喜んで行かせて頂きます」
「ちょっと待って、貴方! アウルはまだ十三歳よ」
「関係ない。前からアウルには話していたことだ」
テラス・キマに備えて、夢の中の武装や兵器を研究してきたが、魔物を殺せる道具は人間も殺せる。研究した者として、己が作った物がどのような結果を産むか、見なければならない。それが主導してきた人間の責任だろう。
「アウル。費用についてはこちらで持つ。親父の所で調達しなさい。では、解散」
会議室を出ていったファルを鬼の形相のリーフが追いかけていった。アルディートも不満そうにテーブルを指でノックしている。
「アウルよ。儂も少し初陣は早い気がするぞ」
「いえ、爺様。部下を戦場に送り、後方で待っとくことなんて出来ませんよ。僕が開発部の総室長だけなら良かったかもしれませんが、カラミタ家嫡男アウル・カラミタであり、将来の王国の護り人です。今回の戦いから逃げる
「元々、行商人の血筋なのに
「領主ご夫妻の教育の賜物ですな」
旧主従の会話で少し緊張が解れた職員たちは持ち場に戻り、仕事を開始したが、すぐに領主の執務室が吹き飛んで、集まることとなった。
戦争の足音がアウル達の近くまで迫ってきていた。
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