第8話 ダンスパーティー
宿に戻ったアウルを待っていたのは臨戦態勢の女性陣であった。捕まるとすぐに着せ替え人形となった。
準備が終わると王城の近くにある迎賓館へと馬車で向かった。今回は王族主催ということでかなりの数の貴族が集まっており、迎賓館への移動時間より入るまでの待ち時間の方が長かった。
「キラキラし過ぎでしょ」
「今回は第三王子の誕生ダンスパーティーですから気合が入ってますね」
会場は絢爛豪華の一言に尽きる。最近の戦争に勝ちはするが、王族の尻拭いをして勝つことが多く、求心力は落ちる一方であった。失態を覆い隠す為にパーティーを開くたびに豪華さが増していると噂になっている。
「リーフ殿!」
「ピグロ閣下、ご無沙汰しております!」
人波から逃げる為に、壁側へ逃げてきたアウルとリーフはピグロ辺境伯から声をかけられた。ピグロ辺境伯は王国南部に大規模な領地を持つ大貴族である。更にテラス・キマが発生した場合には総大将を務め、防衛にあたる。
アウルも試験畑を実施する際に会っており、その後も作物の相談なとで文通している。
「リーフ殿は歳を取りませんな」
「ありがとうございます、閣下。普段からのケアが重要なんですよ」
「アウルもデカく…デカくはなっていないな」
「……少しは身長伸びましたよ」
アウルは結構身長を気にしている。父親は170cm以上あるが母親は155cm程度しかなく、今もアウル自身が平均より小さい為、戦々恐々している。
「まぁまぁ、これからだ。おっと、陰険な男が近づいて来てるわい」
「陰険とはとんだ悪口だな。娘と孫に会いに来るのが、何か問題でも?」
「いや、別に」
ピグロ辺境伯と口論しているのがスカラベ辺境伯。王国北部に大規模な領地を持つ大貴族。北部の蛮族からの防衛や鉱物の産地である為、経済的には豊かである。因みにリーフの実家でもある。
「久しぶりだな、リーフ」
「お元気そうで何よりです、お父様。おかげ様で2人の子宝にも恵まれ、元気にしております」
「そっちが息子か。
リーフを見る目も厳しかったがアウルを見る目は更に厳しかった。まるで敵を見るような目であった。
「アウル・カラミタと申します。以後お見知りおきを」
「あぁ。南で何かしているようだが、精々足掻いてみるがよい」
スカラベ辺境伯はアウルの返事を聞かずにスタスタとダンスパーティーの中に消えていった。
「ごめんね、アウル。私がファルと無理矢理結婚したことにまだ、怒っているみたいなのよね〜」
「……はぁ、そうなんですね」
いやいや、絶対に狙撃したことを根に持たれてるよと心の中で思ったがアウルは口に絶対出さなかった。
しかし、盗賊などを使ってまで嫌がらせを実の娘に続けるというのには疑問が生じた。
「アウル、踊る人居ないの?」
「母上こそ、僕を盾にして断ってますよね?」
「案外、貴方のお父様は嫉妬深いのよ」
親のそういう話を聞きたくないと思いつつ、アウルはダンスを踊る人を見ながら、葡萄汁を飲み干した。
不意に横から衝撃を受けた。不意打ちではあったが、身体強化魔法のおかげで体勢を崩すことなく、金色の弾丸を受け止めた。
「エリーゼ王女殿下。身体強化魔法を使って、突撃しないと前回お会いした時にお約束しましたよね?」
「……した」
金色の弾丸となって、アウルに突撃したのはヘルト王国第四王女エリーゼ・ヘルトだった。魔力量は優れている反面、制御が苦手あった。感情が昂ると魔法が意図せず発動してしまい、事故が起きてしまった。
静養でピグロ領を訪れていたエリーゼ王女の遊び相手にアウルとミラは呼ばれ、友情を育んでいた。
魔力制御について相談を受けたアウルはピグロ辺境伯に許可を貰い、エリーゼ王女にカラミタ領軍式魔法訓練を行うことで問題は解決し王都に戻った。
「物は壊さずに魔法は使えてますか?」
「うん…」
「なら、良かったです。ミラも会いたがっていますよ。是非、カラミタ領に遊びに来られて下さい」
「分かった行く」
アウルは腹を頭でグリグリされるのに耐えつつ、エリーゼ王女の従者が来るまで待った。
リーフとミラのプラチナブロンド系の金髪とは違い、エリーゼは金塊のように自己主張が強い金髪であり、魔法を使うと更にキラキラ光るので本人はとても嫌がっていた。
迎えの従者が来て、エリーゼは連れて行かれた。
「……またね」
「はい、領地にてお待ちしております」
ダンスパーティーなのに踊ることはせずにアウルとリーフは会場を後にした。
「お兄、さっきの人がアウル」
「なるほど。僕の愛しい人のお兄様か。それにしても君のタックルに耐えるなんて、どれだけの猛者なんだ?」
「……王国最強の男」
会場のテラスからアウルが乗る馬車を見送る兄妹。2人共、闇夜でも輝いている金髪であった。
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「今日は疲れたわ」
「お疲れ様です。しかし、母上も踊らないなら何故、今日のパーティーに僕を連れてきたのですか?」
「ピグロ閣下からの要望だったはずよ、詳しくは領地に戻ってからファルに聞いて頂戴」
アウルは部屋に戻ろうかと思ったが星を見たくなり、中庭に出た。
「アウル様。お身体が冷えますので、こちらを」
「ありがとう、カミラ。僕が好きな紅茶だ」
中庭の椅子に座っていたら、カミラが紅茶を入れて持って来てくれた。2人並んで、星を見ながらゆっくりと過ごした。
「そういえば、カミラは踊れる?」
「多少なら」
「じゃあ、踊ろうか。2人だけのダンスパーティーだね」
星空の下、鳥や虫の声が曲となり、2人は心の赴くまま踊った。
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