第7話 真紅の女

 アウルはサージに頼み予約していた会員制のカフェに来ていた。商会や冒険者などが情報交換の為に幅広く使われているカフェであり、個室かつ防音魔法が常備されている。

 

 紅茶を飲みつつ、書類の確認をしているとドアがノックされた。


「お客様、アマンダ様がご到着されました。お通してもよろしくでしょうか?」


「はい、お願いします」


 ウェイターがドアを開け、その後ろから炎のような真紅の長い髪を靡かせ、スレンダーな美人はアウルの前でゆっくりと近づいた。


「初めまして、カラミタ領開発部総室長兼カラミタ男爵嫡男アウル・カラミタと申します」


「初めまして、アマンダと申します。本日はお招き頂きまして、ありがとうございます」


 アウルがお座り下さいと言い、アマンダのコーヒーと軽食を注文すると早速、本題に入った。


「お手紙を簡単なことはお伝えしておりましたが、改めてご説明させて頂きます。


 カラミタ領は現在、私が主導する計画に基づき、研究開発改良を行い、成果は領地に還元しております。


 ある部門において、アマンダ博士が提唱された魔粒子理論及び付随する研究が我々の計画に重要だと判断し、お話を聞いて頂きたく、お呼びした次第にございます」


「なるほど。先ずは二点程、よろしいでしょうか?」


「はい、どうぞ」


「先ず、魔法大学学長と個人的なトラブルで大学は除籍となり、その際に博士資格も剥奪されていますので、博士と呼ぶのは止めて頂きますよう、お願い致します。


 二点目は私の魔粒子理論は国の魔法の権威である魔法ギルドから虚偽され、追放処分となっています。それでも、魔粒子は存在するとお考えですか?」


「一点目についてはかしこまりました、アマンダ氏。


 二点目についてはカラミタ領の機密にも触れる可能性がある為、こちらの情報公開制限の魔法契約書にサインを頂ければ、お話しすることが出来ます」


 アウルは契約書を渡し、アマンダに内容の確認を促した。魔法契約書は魔力を流しながら文字をなぞることで内容を確認したことを証明し、サインすると契約を遵守させる一種の呪いである。


「内容自体は情報の口外及び研究利用の禁止ですね。他の所も問題ありませんので、サインさせて頂きます」


「ありがとうございます」


 この契約書にサインして貰わないと詳しい話が出来なかった為、アウルは少しハラハラしていた。


 ドアがノックされ、ウェイターが注文した商品を運んで来た。紅茶で口を潤してから話を再開した。


「ご自由に飲み食べながら、聞かれて下さい」


「は、はぁ。ありがとうございます」


「さっきのご質問の回答ですが、我々開発部は魔粒子が存在していると考えております。


 根拠は植物の魔物化にあります。魔法ギルドは魔臓や魔石が魔力を生成し、蓄えてるからこそ魔法が使えると提唱しています。それでは魔石や魔臓を持たない植物の魔物化の原理を説明が出来ません。


 カラミタ領は王国南部にあり、テラス・キマがあります。テラス・キマ後に植物系魔物の被害が増加していると判明しました。


 そこで我々は多角的に調査を行い、分布図が出来ました。こちらをご覧ください」


 アウルは一枚の書類を鞄から取り出し、アマンダに差し出した。それは王国南部の地図であり、色分けとバツ印が付いていた。


「色は植物系魔物の発生頻度、バツ印はテラス・キマ時に魔物の討伐数が多かった地点です。


 だいたいが合致しています。そこで我々は試験的な畑を各地に作りました。魔物の死体や魔石の有無、魔の森から近いか遠いか。


 いろいろ条件をもとに検証した結果、魔の森に近く魔石を含んだままの死体を使った畑では八割近くが魔物化し、逆の条件だったら一割にもありませんでした。


 更に中間の試験場では実りも多く、病気も強い作物が育つと分かりました。条件を調整した畑のおかげで安定した生産が可能となり、カラミタ領の食生活を支えています」


「なるほど。何故、そこから魔粒子があると?」


「話が逸れてました。我々の結論としては体内で生成された魔力以外にも大地や空気中に魔力もしくは類似したものがあり、それらを吸収した植物が魔物化する。


 その為、従来の理論は人間種や魔物に基準にしているだけであり、他の動植物は他の理論で魔力を吸収していると我々は結論を出しました」


「面白い目の付け所ですね。私は失われた魔導具技術を研究する中で魔粒子理論を思いつきました。


 昔でありますがフラルゴ博士が提唱した魔石から魔力を得る抽出魔法陣も一度は却下され、後に認められました。私も諦めずに研究を続けたいのです」


 魔粒子理論は空気中の魔粒子を還元魔法陣で収集圧縮を行い、魔力を生成し魔導具の動力源とするというものである。


 王国自体が大昔から魔力が多い者を優遇し、貴族として召し抱えていた。誰でも使える魔導具を王国としては、認める訳にいかなかった。


「こちらを見て頂きたい」


「SR計画?」


 アウルはアマンダにSRセヘル・リッターの計画書を渡した。


「これは面白い。現在は、歩兵の装備と研究されていますがいろいろなことに転用可能ですね。しかも、これを10代の男の子が考えつくなんて、アウル様は天才か鬼才のどちらかですね」


「お褒め頂きありがとうございます」


「確かに動力源として魔粒子理論を使いたいと考えているなら、私が必要となりますね」


「はい。更に疑似精霊の方も制御に使えないかと思っています」


「……ふむふむ………面白いッ!」


 アマンダは計画書を食いるように見ていた。アウルはこの人もフラルゴと一緒だなと思い、読み終わるのを待っていた。


「是非、参加させて頂きたいですが雇用内容を確認させて貰いたいです」


「こちらこそ、お願い致します。給与は金貨4枚と大銀貨5枚約45万円と無料の寮もしくは一軒家の貸出と職場の食堂を使われるなら3食無料です」


「破格ですね」


「流石に給与はこれまでの経歴や成果で変わりますが、研究者は全員が同じ待遇です。ご家族がいらっしゃるなら、ご一緒でも大丈夫ですよ」


「家族は居ませんので、これからよろしくお願い致します」


「かしこまりました。こちらこそ、よろしくお願い致します」


 欲しかった人材の確保に喜んだが、アウルは気になることを聞いてみた。


「学長とは何故トラブルに?」


「学長の愛人になるなら、ギルドの追放処分を取消させると言われたので、奴をこの世から消してやろうと燃やしたのですが、失敗しました。私はどちらかというとアウル君の方が……」


 最後の方は聞こえなかったが、とにかくアマンダを怒らせないようにしようと決意し、アマンダとの会談を終えた。

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