第6話 カラミタ商会

「久しぶりに来たな、王都」


「私は三ヶ月ぶりだわ」


 アウル一行は夕方に王都へ到着した。明日のダンスパーティーの準備もあり、宿に荷物を置くと予約していた商会へ向かった。


「……カラミタ商会王都支店」


「信頼出来る商会でしょ」


 カラミタ領の前領主であるサージアウルの祖父はカラミタ商会の会頭だった。当時、テラス・キマの際に迫りくる魔物の中を突破し、最前線の砦まで物資を届けた。


 その行為に感動したピグロ辺境伯が領地を分け、男爵に推挙し、サージはカラミタ男爵となった。


「リーフ、アウル! よく来た!」


「お義父様、ご無沙汰しております!」


 店に入るとすぐに二階の執務室に案内され、中に入るとサージが出迎えた。


 領主をファルに譲るとサージはカラミタ商会の会頭に戻り、商いに専念していた。


「アウルもデカくなったなぁ。王都嫌いのお前が来るのは意外だな」


「ダンスパーティー如きなら仮病を使って来ませんでしたが、今回は母上から参加強制するように言われましたからね」


 少し談笑をると女性陣は買物に向かった。部屋にはアウルとサージが残った。


「女性陣が居なくなると、静かになるなぁ」


「いつものことですよ、爺様」


「さて、顔を合わせたんだ。情報交換としよう」


 サージは棚から書類とワイン、葡萄汁を取り出し、アウルの前に置いた。


「ワインはまだ早かったか。まぁ、書類を見てくれ。


 カラミタ領の薬草やタバコ、玩具は階級関係なく飛ぶように売れている。飲食店の売上も好調。アウル様様だ」


「爺様の人脈がなければ、上手くいきませんでした。ありがとうございます」


 夢の中で商売に使えそうな案は全てサージに提案し、商品化していった。


 とくにパスタやハンバーグ等を提供する飲食店を出店した所、王都でも大人気店になっていた。


「今度は頼まれた物だが、野菜や香辛料系、動物は第一開発部、各鉱石や魔石は第三,四開発部に送っておる」


「いつも、ありがとうございます」


 カラミタ領には四つの開発部があり、第一開発部は農業と畜産、第二開発部は馬車や舟を担当している。


 アウルが携わった商品の売上の一部を報酬として、アウルにカラミタ商会から支払われており、それを資金源に開発部で使う物品を買い漁っていた。


「そういえば、街道に盗賊がかなり居ましたが情報などはありますか?」


「儂も気になって調べておるが、あれは嫌がらせの可能性が高そうじゃ。筆頭はスカラベかの」


「母上関連ですか」


「後はカラミタ領が異常な発展しているからな、妬み僻みは多いな」


 アウルの母親であるリーフはスカラベ辺境伯長女であったが領地を継ぐ前に行商人していたファルと出会い、駆け落ちしたとなっていた。


 実際はファルに一目惚れしたリーフが振られたがつきまといストーカー、スカラベ領を出る際に荷物に紛れ込み、その日の夜にファルを襲撃、既成事実を作り上げたというのが真実である。


 スカラベ辺境伯もリーフを連れ戻そうとしたがカラミタ領に来訪した際に遠距離から魔法で狙撃し、護衛と辺境伯を撃退した。


 辺境伯は連れ戻すことを諦め、結婚を認めたがネチネチとした嫌がらせが始まった。


「そうだった、お前が興味を持っている学者はウチのホテルに泊まっておるぞ」


「そうなんですね。明日の午前中にお会いする約束しています」


「しかし、お前もなかなか豪胆だの。魔法ギルドを追放された挙げ句に魔法大学も除籍処分になった学者を囲うなんてな」


「えっ……除籍処分?」


「おう。論文の審査委員に大学の学長が居たんだが審査内容に文句を言いに行って口論になり、学長を燃やしたらしいぞ」


「……初耳です」


 アウルは思考がフリーズした。魔法大学まで進学したということは最低でも大規模で殺傷能力がある魔法を使える。仲間に引き入れて、暴れられても制圧するまでに怪我人がでる。


 急なデメリットが出てきて、アウルはアマンダ博士を仲間に引き入れるのに躊躇が出てきた。


「儂も話したことはあるが魔粒子理論に自信があるようじゃな。論文も見たが確かに理論的な文章で基礎的な魔法しか使えん儂でも分かりやすいかったぞ」


「他人の評価が厳しい爺様が褒めているなら本物ようですね」


「合格点が高いだけじゃ」


 渡された葡萄汁を飲みながら、明日の面談をどうするか悩んでいると下から女性陣に呼ばれ、サージに断りを入れて、売り場に向かった。


「カミラの服なんだけど、どっちが良いかな?」


 リーフは右に黒色のワンピースと左には少し丈の短い水色のワンピースを持って、カミラに交互に合わせていた


「……左で」


 ニアニアするリーフから目を逸らしつつ、アウルは答えた。たまにはこういう時間も良いなとアウルは思っていたがこの後、夕飯まで付き合わされて、後悔した。

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