第5話 月明かりの下で

「カミラと交わったそうですな」


「アルディートまで言うのは止めてくれ」


 カミラと食事してから二日経ち、アウルは王都へ向かっていた。


 馬車にはカミラとリーフ、カタリナが乗っており、その周りに護衛のカラミタ領軍が隊列を組んでいた。


 アウルは女性陣からの口撃を避けるために愛馬に乗り、先頭に居たがカラミタ領軍長兼今回の護衛隊長を務めているアルディートにカミラの件について、話を振られていた。


「カミラが領内でも屈指の拳闘士インファイターってことを忘れていた。もうあれはレイプだったぞ。6歳も離れていたら体格差もあって、反抗することも出来ん」


「カミラは私の姪ですからなぁ。女の割には身長も高く、幼少の頃からアウル様の護衛役を務める為に私や息子達と一緒に訓練しておりますから、魔法無しではアウル様も勝てんでしょう。まぁ、部屋に入れた段階で負け戦ですな」


 ガハハハと笑うアルディートをアウルは睨みつけるが、睨まれてる本人は何処吹く風だった。


「……分かった、ありがとう」


「どうされましたか?」


「百m先で盗賊の待ち伏せがある」


「なるほど」


「三十mになったら、先制攻撃して相手のタイミングを外してやろう」


 アウルから盗賊の情報を聞いたアルディートは馬車の速度を落とし前衛に騎馬隊、その後ろに歩兵をゆっくりと移動させた。


「さて、行くか。

 我に宿りし火の魂よ アウル・カラミタの名において命じる 火の矢と成りて、我が敵を穿て!」


 詠唱と同時に火の弓矢が形成され、引き絞ると空へと放った。矢は分裂しながら、弧を描き、吸い込まれるように地上へ落ちていく。


「いつ見ても不思議な魔法ですな」


「まぁ、魔法は想像イメージだからな」


 分裂した火の矢は一本一本が正確に盗賊を撃ち抜いており、道の脇から悲鳴とうめき声が聞えてきていた。


 火の矢は通常一本しか生成されないがアウルは魔法を構築する段階でクラスター爆弾、分裂後は誘導弾を想像していた為、他の魔法使いとは魔法の性質が違った。


 アウルは馬上から盗賊の命を狩り取っていく。同じ火の矢の魔法であるが心臓に一撃であり、アウルの後には屍しかなかった。


「流石ですな、他の盗賊も除去が完了しました」


「分かった。最近、話題に上がっていた盗賊団の一味かも知れんな。しかし、装備が良すぎるのも少し気になるな」


「確かに。盗賊の割には傷が少ない鎧と剣ですな。他の貴族の嫌がらせかそれとも他国か。今はどちらにせよ、全て殺ってしまいましたから、分かりませぬ」


「ウチの血の気の多さは改善すべき点だな」


 盗賊は領地運営において、害虫であり、その場での処刑が許可されていた。一人二人生かしといて拠点を吐かせるのが普通であるが、護衛隊は皆殺しにしていた。


 カラミタ領軍の大半はカラミタ商会のお抱え傭兵隊の出身が多く基本的に敵は残さない方針であった。


「先を急ぐか。装備は剥ぎ取り、死体は燃やしとけ」


「かしこまりました」


 王都に着くまでに四度程、盗賊や山賊の襲撃を受けたが、全てを撃滅した。


 王都まで半日の村で一泊することになった。アウルは窓辺に座り、月を眺めていた。


「アウル〜」


「どうした、シオン」


 アウルは月明かりで踊る光球と話していた。光球は次第に人の形になり、肩に乗った。


SRセヘル・リッター? 上手くいって無いんでしょ〜」


「あぁ、そうだな。今回の王都行の表向き理由は夏期のダンスパーティーだが、俺の目的は魔粒子理論のアマンダ博士だ。


 あの人が計画の要に成ることは確かだ。実際に論文を読んだフラルゴがいろいろと改善が出来そうだと吠えていたからな」


「ふ~ん。アウルは大きな魔法を使う時、僕に制御を任せてくれるよね? あんな感じにSRの制御を僕がすれば、楽になるんじゃない?」


「確かにな。しかし、俺と同じ精霊の契約者を探すのは絶対数も少ないし、あまりにも非効率的だ。けど、その考えは参考にするよ」


 精霊のシオンは月光の下で嬉しそうに踊る。アウルは何時までも眺めていた。

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