第4話 第四開発部

「やべぇな、雰囲気が悪過ぎる」


「……ですわ」


 第6開発部内は話し声は一切聞こえず、筆の音と本を捲る音しか聞えてこない。


「あぁ、アウル様… 室長は二階に居ます」


「ありがとう」


 突然、後ろに現れた職員に会いに来た室長の居場所を聞き、二階へと上がり、第一製図室の中に入った。


「フラルゴ、生きているか?」


「……アウル様ですか、生きております」


 アウルの夢の世界にあった特殊歩兵装備、正式名称【歩兵戦闘用特殊強化外骨格スサノオ】の再現を目指しているのがこの第六開発部であり、室長のフラルゴに日夜唸り声をあげながら仕事に取り組んでいた。


 SRセヘル・リッター計画。ゴーレム技術を転用し、歩兵の装甲化、高速化、高火力化を目指す計画であり、アウルが描いた姿が伝説の魔法騎士であるセヘル・リッターに似ていた為、計画名がSRとなった。


「申し訳ありません。まだ、何も進展はありません」


「大丈夫。昨日も言ったが魔石を利用した鎧の起動には成功したんだ、これは大きな進歩だよ」


「そう言われても私が納得いかないのです」


 フラルゴはゴーレムの製造技術において、第一人者であり最前線を走り続けた男でアウルが語った人が着込むゴーレムに挑戦欲が刺激され、家族共にカラミタ領へ帝国から移住してきたエルフである。


 ゴーレムには二魔力溜まりから産まれる天然物と人が作り出す人工物の二種類が存在している。


 人口ゴーレムは制作時に魔法陣と魔石を埋め込み作り上げる。SRの場合、人工ゴーレムの中身を取り除き、人が乗り込む空間を作っていた。


 研究を続けたフラルゴはなんとか従来のゴーレムより劣る制御系魔法陣と外部取付式になったが動力用魔石を設置し、起動に成功させた。


「そんなに自分を追い込むな。SR計画自体が成功した場合、戦術や戦略、技術も全てがひっくり返る」


「分かっていますがダンテは成果を出しております。アウル様の援護があってもご領主様から不要と言われてしまったら、研究を止めなきゃいけませぬ。だからこそ、分かりやすい成果が必要なのです」


 確かに分かりやすい成果は無いが領主のファルはアウルが携わる事業は中長期間で考えており、アウルの代で成果が出れば良いとも考えていた。


「こんな状況だが見て欲しい書類がある」


「なんでしょうか?」


 フラルゴは渡された書類を読むスピードが一枚ごとに増していく。読み終わると顔をあげて、はっきりとした口調で言った。


「この論文の主はSR計画に必要不可欠な人間です、すぐに勧誘してください」


「無論、既にアポは取っており、携わる計画と雇い主に会いたいと言われたから明後日から王都に行ってくる」


「良い決断です。カラミタ家の方々は良い意味で貴族らしくなく、忍耐強いので我々も安心して仕事が出来ます」


 アウルがフラルゴに見せた書類は最近、魔法大学を首席で卒業した人物が発表した理論及び魔法陣である。


 魔粒子理論及び疑似精霊理論。この二つを発表した所、魔法ギルドが再現出来なかった為、虚偽の発表とされ、ギルドを追放されていた。


 この理論に興味を抱いたアウルは父親の了解を得て、接触し会談までこぎ着けた。


「俺も失敗するつもりはないけど、居ない間の研究も頑張ってね」


「はい、新入りには負けないようにしますよ」


 少し表情が明るくなったフラルゴに別れを告げて、第六開発部をアウル達は後にした。


「王都に行くことは知りませんでしたよ!」


「明後日、ミラは友達と遊ぶ約束していただろう? 王都に行っても仕事ばかりする予定だからミラには話して無かったんだ」


「分かりましたわ」


 王都行を黙っていたことで頰を膨らませて怒るミラを宥めつつ、屋敷に戻った。


「食事は部屋で食べる、カミラも一緒に食べよう」


「かしこまりました」


 着替えを済ませて、アウルが携わっている事業の報告に目を通していたら、ドアがノックされた。


「おまたせ致しました」


「…そこまで待っていないが」


 入って来たカミラの服装にアウルは言葉を失った。ワンピースであるが大事な所は透けているのだ。更にカミラの雪のような透明感のある白い肌に黒いワンピースのコントラストはアウルの思考を奪う。


「そこまで見つめないでくださいませ、恥ずかしいです」


「悪い」


 無言のまま席に座り、食事するがどうしてもカミラに目がいってしまう。


「アウル様」


「どうした?」


「何故、私を避けたのですか?」


 アウルはなかなか答えることが出来ない。夢で地獄のような痴情のもつれを経験し、女性を避けている等を言っても頭がおかしい奴にしか思われない。


「カミラを嫌って、避けていた訳じゃない。初恋は君だったが僕は貴族だ。


 君と結ばれてもいつかは他の貴族の令嬢を正妻に貰い、君はメイドの立場から変わらず、子供に残せる物は少ない」


「はい」


「テラス・キマから君は逃げることは出来るが僕は王国南部貴族として、ここを守る義務がある。カミラは僕を深く愛してくれていることも理解しているから後を追うこともあり得る。


 だから、突き放して時間はかかるかもしれないけど別の好きな人が出来て、幸せを掴んでくれると思ってた」


 アウルは本音を吐露した。カミラは悲しそうな怒っているような表情している。


 また、沈黙が2人を支配する。


 おもむろにカミラは立ち上がり、アウルに近づき、目の前で立ち止まった。


「…カミラ?」


「ごめんね、アル」


 カミラは昔の呼び方で謝罪し、アウルの身体をしっかりと抑えると優しく唇を重ねたが、すぐにカミラはアウルの唇をこじ開け、蹂躙した。


「カ、カミラ!」


「アルがいろいろと考えてくれていたのは嬉しかったけど、私を舐めないで欲しい。今日はアルに私を思い出しで貰うよ」


 カミラはアウルを抱き締めたまま、ベットへ行く。アウルは忘れていたことを思い出した。


リーフ様お義母様に私もアルもお休みにしてもらう許可は貰ったから」


 これはもうアウルからしたら死刑宣告であった。


「……終わった」


 アウル達が部屋から出たのは翌日の昼であった。そのことはすぐに屋敷の住人たちの中で噂になった。

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