清川斗真の末路
~another side 清川斗真~
(どうしてこうなった…?)
清川斗真は教室の自分の席に座り、頭を抱えていた。彼の目の前では本山生人がイメチェンを果たし、クラスメイトたちからチヤホヤされている。しかも彼女までできたという。
(本来なら俺があいつの立ち位置にいるはずだったのに。クラスメイトにチヤホヤされて、可愛い彼女もできて…)
それを見た斗真はとてつもない敗北感に蝕まれた。
彼は高校入学当初こそ、イケメンとしてクラスのトップカーストの地位を確立していたのであるが…現在ではクラス内で触れてはいけない人間としてクラスメイト全員からその存在を無視されていた。
彼が誰かに話しかけてもクラスメイトたちはそれを無視する。授業などで教師に指示された場合は仕方なく対応するが、それ以外では完全にいない者とされていた。
その原因は彼が海野茜、木島誠也と組んで本山生人に無実の罪をでっちあげたからである。まともな人間ならそんな人間と関わり合いになろうとは思わない。
(これじゃ中学時代とそれほど変わらないじゃないか…)
斗真の頭の中に中学時代の苦々しい思い出がフラッシュバックした。
…彼の通っていた地元の中学校は荒れていた。別の言い方をすると民度の高い学校ではなかった。
クラスカーストトップの人間はやりたい放題、まさに王侯貴族の如く振る舞い、逆にカースト下位の人間は奴隷と同じような扱いだった。
カーストトップ集団がイジメや暴行、窃盗まがいの事をしても他の人間は自分には関係ないと見ないふり。仮にそれをカーストトップ集団に注意したり、先生にチクろうものなら自分が新しくイジメの標的になるからである。
むしろ自分が標的にならないためにカーストトップ集団の悪行を賞賛し、忖度する者もいたぐらいだ。
まともなクラスであれば…例えカーストトップの人間だとしても悪い事をすれば周りの人間が注意をしたり、苦言を呈する。そして注意された人物もそれを受け入れ反省するのであるが、中学時代の斗真のクラスはまともではなかった。
彼はそのまともではない中学で3年間、クラスカースト底辺の陰キャチー牛として抑圧され、縮こまった日々を送っていたのである。
そしてそんな惨めな生活を送っていた彼はある日思い至った。
(高校で俺は絶対カーストトップになってやる。もうカースト底辺の陰キャは嫌だ…。そして俺も彼女を作るんだ!)
彼はその日から必死に勉強した。もちろんそれは学校で習う勉強だけではない。ファッションやオシャレの勉強も含まれる。
その勉強の甲斐もあって今いる高校に入学し、トップカーストとしての地位の手に入れたのである。
彼はその短い青春を謳歌した。高校に入学した彼は同じくクラスのトップ集団と遊びに行ったり、女の子とスマホのメッセージアプリのIDを交換したりもした。自分もトップカーストの一員になれたのだと彼は喜んだ。
それと同時にクラスにいる陰キャチー牛たちを見て優越感に浸っていた。
あんなゴミのような存在にはもう2度と戻りたくない。俺はお前らとは違う高次元の存在になったのだと、教室の隅でコソコソ集まってオタクの会話をする彼らを見て自尊心を満たした。
だがそんな彼の短い天下は終わりを告げる。
彼は元々陰キャだった。それ故に「彼女を作りたい」という欲望が先行しすぎ、別の女の子に行けばいいのに、顔が良いだけの地雷女にこだわった。
そして悲惨な中学時代を過ごした経験から、自分が陰キャチー牛扱いをされるのを極度に嫌ったのである。
結果、彼は「彼女を作りたい」という性欲によってその選択肢を間違え、また「チー牛扱いされたくない」という虚栄心によってその立場を失ったのだ。
(俺は陰キャチー牛共より格上の存在なんだ…。俺はあんな奴らとは違うんだ…)
彼の精神は…元々彼が精神的に強くなかったこともあるが、高校入学時との扱いの格差でズタボロだった。つい1カ月ほど前まであんなにチヤホヤされていたのに。今では誰にも相手にされない。
現在の彼は頭の中で必死にそう思い込む事によって、自分の精神を安定させていたのである。
そんな中、ギリギリで保っていた斗真の精神を崩壊させるような事件が起きる。
ある日の昼休み、彼はトイレに行こうと席を立った。その際にたまたま彼の後ろを歩いていたクラスの陰キャチー牛である佐藤という男とぶつかってしまう。
そしてぶつかった拍子に佐藤の爪が斗真の顔に当たり、彼の顔から少し血が出た。
…通常時の彼であれば内心イラつきはしたが、表面では笑って許しただろう。だが現在の彼は精神的に全く余裕がなかった。
彼は激昂し、佐藤を突き飛ばしてしまう。自分が見下している陰キャチー牛にトップカーストである自分の顔を傷つけられたのだ。許せるはずがない。
「うわっ!」
「陰キャチー牛如きが誰の顔に傷をつけたと思ってるんだ! 俺はお前らとは違うんだぞ!」
突然の斗真の凶行にクラスメイトは「何事か?」とその周りに集まる。たまたま近くにいた坊主頭で筋肉質の男…山田が暴れる斗真を押さえつけた。
山田もクラスカースト上位側の人間で、高校入学当初は斗真と仲良くしていた。しかし海野茜セクハラ事件後に斗真とは距離を置いた人間の1人であった。
「清川、お前何やってんだ」
「こいつが! こいつが俺の顔を…! この陰キャチー牛が!!!」
「落ち着け! お前おかしいぞ」
「俺はトップカーストの人間なんだ。陰キャチー牛どもとは違うんだ!」
「カースト最下層のお前が何を言ってんだ! 佐藤に謝れ!」
「えっ…?」
その言葉を聞いた斗真は愕然とした。いや、薄々わかってはいたのだ。自分がそのような扱いを受けていると。しかしそれを認めると自分の精神が崩壊していた。だからそれを頭の中で必死に否定していた。
ところがクラスカーストトップの山田から直々にその事実を…自分が必死に否定していた事実を言われてしまった。
斗真のひびの入った壊れかけの心が「ガチャン」と音を立てて砕けた。それを聞いた彼の精神は完全に崩壊した。
「あ、あは、あはは、アハハハハハハ、アッハッハッハッハッハ!!!」
いきなり大声で笑い始めた斗真に山田は気持ち悪さを感じて離れる。彼は大声で笑いながら教室を出て行くと、そのまま帰ってこなかった。
翌日から斗真はずっと学校を休んだ。
それから2カ月ほどが経っただろうか? クラスメイトたちは教師から斗真が急遽転校した事を聞かされる。
「転校」というのは教師が気を使ってそう言っただけである。実際の斗真は転校したのではなく、彼の様子がおかしい事に気づいた両親によって精神病院に入院させられていた。彼は以後ずっとその病院で過ごす事になる。
だがクラスメイトたちは特にそれを気にもしなかった。厄介な人間がいなくなってくれたと認識しただけだ。
性欲と虚栄心によってその判断をミスり続けた男の末路は…自分が2度となりたくないと見下していた陰キャチー牛以下の存在になり果て、精神崩壊を起こし、その一生をふいにする結末で幕を閉じた。
その虚栄心は彼の心をも
◇◇◇
ぶっちゃけ木島と清川はおまけみたいなもんです。
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