僕は少しイメチェンしてみる
僕と葵さんはお互いの想いを伝えあい、晴れて恋人同士となった。
日曜日、僕は自室のベットの上でその喜びを噛みしめていた。心がフワフワとした浮遊感に包まれている。自分でも気持ちが浮ついているのが理解できた。
まさか僕のような陰キャが葵さんのような美少女と付き合えるだなんて…。
本当に夢のようだ。でもこれは…夢じゃない。僕たちは昨日あの観覧車の中でお互いの想いを告白し合ったのだ。
しかしそんな幸福な気持ちとは裏腹に僕はある不安感に襲われた。
それは…もし葵さんに見限られたらどうしようという気持ちである。
手に入れた幸福が大きいほど…それを失った時の悲しみは大きい。
葵さんは美少女だ。性格も良い。僕にはもったいないぐらいの人である。それにひきかえ僕はただのゲームやアニメが好きなだけの陰キャ…。
彼女は僕の事が好きだと言ってくれたが、僕と彼女が釣り合っているのかと言われれば…正直疑問である。
僕は葵さんの事が好きだ。
彼女に嫌われたくないし、見限られたくない。彼女ともっと一緒に居たい、彼女の笑顔を見たい、そして…彼女を幸せにしたい。
「…よし!」
僕は誰が見ても葵さんにふさわしい男になろうと決意した。
○○〇
カランカラン♪
決起した僕はなじみの散髪屋に向かった。店の中に入ると来客を知らせるベルが鳴り響き、それに反応して奥から眼鏡をかけた初老の男が出て来る。この店のマスターだ。
「いらっしゃい! あぁ生人君、久々だねぇ。今日もいつも通りかい?」
「マスター、こんにちは! いや、今日はいつもとは違う髪型で頼みたいんだ」
僕は自分を変えるためにまず見た目から変える事にした。
これまでの僕は相手に不快感を与えないような最低限度の身だしなみは整えていたが、それだけだ。でもこれからはそれだけでは足りない。葵さんの彼氏にふさわしい男になると僕は決めたのだ。
ファッション…服の方はネットで「高校生におススメのファッション」のページを見ながら、鏡の前で自分に似合うかどうかを確かめればそれで良かった。似合わなければ着替えればいい。
しかし髪型はそうはいかない。髪は1度切ってしまうと中々変えられないのだ。それに僕は小さい時からずっと同じ髪型をしているので、違う髪型をしている自分がイメージし辛かったというのもある。
自分の力でどうにかできないのなら、他人の力を頼ればいい。なのでその道のプロに尋ねて、自分にどんな髪型が似合っているのか相談する事にしたのだ。
「最近流行の髪型で僕に似合う髪型ってどれかな?」
僕はファッション雑誌の「メンズトレンドヘア」のページをマスターに見せながら相談した。
「そうだねぇ…生人君はどういう風になりたいんだい? カッコイイ系? ワイルド系? それともカワイイ系かい?」
僕がどうなりたいか…? それはもちろん、葵さんに似合うようなカッコいい男になりたい。
「カッコいい系でお願いします!」
「そうかい、じゃあまずはおでこを出してみよう。おでこを出すと清潔感や爽やかさがアップするよ。それと髪はいつもより短く…ベリーショートにしようか。その方が男らしさが出る」
「それでお願いします!」
僕は思い切ってマスターにそう頼んだ。
○○〇
髪を切った僕はそれまでとかなりイメージが変わっていた。確かにマスターに言われた通り…爽やかさや男らしさがアップした気がする。
少なくとも以前の僕よりはカッコいいと自分でも思った。これで少しでも葵さんにふさわしい男になれただろうか?
葵さんはイメチェンした僕を見てどう思うかな? 正平や友人連中は?
僕は若干緊張しつつも学校に向かう。
教室に到着すると正平が珍しく僕よりも早く登校していた。机に座って1限目の準備をしている彼に僕は声をかける。
「おはよう正平!」
「おう、生人か? おは…えっ!?」
正平はイメチェンした僕の姿を見るや、目を見開いて驚いた。
「えっ!? えっ!? お前…生人?」
「うん、そうだよ。少しイメチェンしてみたんだけど…どうかな?」
「いや、全然いいよ。最初見た時はびっくりしたけど…お前カッコよくなったな!」
「うん、ありがとう。あっ、それと土曜日の遊園地の件、腹痛って嘘でしょ?」
「…えっ? ナ、ナンノコトカナァ~?」
「隠さなくていいよ。正平のおかげで僕と葵さんは付き合えたんだ。今まで散々気を使ってくれていたのに気が付かなくてゴメン。だから正平には報告しとかなくちゃと思って。正平、今までありがとう!」
僕の言葉を聞いた正平は目をパチクリとさせていたが、やがて言葉の意味を理解したのか笑顔になった。
「そうか、お前ら…付き合えたんだな。良かったなぁ!!!」
彼はそう言いながらバンバンと僕の背中を叩いてくる。まるで自分の事のように喜びながら。
…本当に彼はいい奴だ。彼と友達で良かった。
「痛い、痛いよ正平!」
「2人ともおはよう! あれ、本山君髪型変えたの? なんかいい感じだね!」
騒がしくしていた僕たちの元に他の友人たちも寄って来た。僕のイメチェンに対する友人たちの反応は上々のようだ。彼らによると僕はカッコよくなったらしい。
後は葵さんだけど…。
おっ!
そこでタイミングよく、葵さんが廊下の向こう側からこちらへ向かって来ているのが見えた。僕は教室を出て葵さんに朝の挨拶をする。
「葵さん、おはよう!」
「本山君! おはようございま…っ~~~/////」
葵さんは僕の姿を見るなり、顔を真っ赤に染めて持っていたプリント類をその場に落とした。僕は慌てて彼女が落としたプリントを拾い集める。
「ごめん葵さん、いきなり挨拶したからびっくりさせちゃったかな?」
「い、いえ…そ、そんなことは…///// か、髪型…変えたんですね///」
「うん、どうかな? カッコいいかな?」
「か、かかか、カッコイイです//// はい、とても////」
そうは言いつつも葵さんは僕と目を合わせてくれない。「カッコイイ」と言ってくれているのだから、以前よりダメという事は無いのだろうけれども。
「す、すいません本山君。私…ちょっと心の準備をしてきますぅ~////」
「あ、葵さん!?」
葵さんはそう言うとダッシュでトイレの方向へ駆けて行った。
◇◇◇
主人公はしばしの甘いひと時を楽しむ
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