僕たちはお互いの想いを伝えあう

 葵さんが僕を連れて行ったのは遊園地の端にある射的屋だった。


 射的屋はおもちゃの銃をぶっぱなして棚に並べてある景品を撃ち、その景品が倒れたらそれを貰えるというアトラクションになっている。


 なるほど…これならシューティングゲームが好きな僕と葵さんが両方楽しめる。しかも2人で同時にプレイできると来た。流石葵さんだ。


 僕たちは早速射的屋で遊ぶ事にした。


 お金を払いお店の人からおもちゃの銃…コルクガンを受け取る。コルクガンとはその名の通り銃身にコルクを詰め、空気圧によって詰めたコルクを弾丸のように発射できるおもちゃの銃である。


「行きますよー♪ わぁ、あれ可愛い!」


 葵さんはウキウキの表情でおもちゃの銃を景品に向けた。どうやら彼女はこの遊園地のマスコットキャラクターのぬいぐるみがお気に召したようだ。

 

 彼女はぬいぐるみに狙いをつけるとコルクを発射する。コルクはまっすぐに飛び、ぬいぐるみの腹に命中した。


 だがコルクの命中したぬいぐるみは少し後ろにずれるだけで、倒れるまではしなかった。


「あれ? 命中したのに…」


 葵さんは頭に疑問符を浮かべながらぬいぐるみを見つめる。


 …射的で景品を倒すにはコツがある。それは景品の真ん中を狙うのではなく、端っこ…右上、もしくは左上の部分を狙うと倒れやすい。


 真ん中を撃っても先ほどのぬいぐるみのように多少後ろに押されるだけで景品は倒れない。だが端っこに当てると「力のモーメント」…回転する力が発生し、少しの衝撃で景品が倒す事ができるのだ。


 そしてコルクの詰め方も重要だ。コルクガンの原理は空気圧を利用して弾を発射するという物だ。銃の中にある空気が多いほど圧力がかかって弾の勢いが強まる。


 なのでコルクを銃身に詰める際に銃のレバーを引いた状態で詰めると…銃の中に存在する空気の量が多くなり、弾が勢いよく飛ぶのだ。


 僕は葵さんにそれを教えてあげた。


「本山君はゲームの事なら何でも知ってますね。流石です♪」


 彼女は僕のアドバイスに従って再びチャレンジする。


 彼女の放った弾は何発か命中し、ぬいぐるみは大きく揺れたものの…残念ながら倒れるまではしなかった。彼女はそのまま持ち弾を全て使い切ってしまう。


「あぁ~…もうちょっとだったのに」


「惜しかったね。任せて!」


 僕は彼女の仇をとるべく、銃口を件のぬいぐるみに向けた。ぬいぐるみの右上…耳の部分をよーく狙ってコルクガンの引き金を引く。


 パァン! …パタリ


 僕の放った弾は見事ぬいぐるみの耳に命中し、その衝撃でぬいぐるみは後ろに倒れた。それと同時にお店の人が「カラン!カラン!」とベルを鳴らし、景品を倒した事を祝福してくれる。


 …ふぅ。ゲームが得意な陰キャの面目躍如と言ったところかな?


「キャー♪ すごーい! 1発で倒すなんてやっぱり本山君は凄いです!」


 葵さんは大興奮で僕がぬいぐるみを撃ち倒した事を喜んだ。お店の人が撃ち倒したぬいぐるみを袋に入れ、彼女に渡す。


 しかしお店の人は袋を渡す際に僕たちにとんでもない事を言い放った。


「彼氏さん、彼女さんにカッコイイ所見せられましたね!」


「か、彼女…」


「あれ、付き合ってないんですか? すいません、あまりに仲が良さそうだったので恋人同士かと…」


 僕はお店の人にそう言われて赤面してしまう。


 そりゃ葵さんのような人が恋人になってくれたら僕も嬉しい。でも葵さんは…僕の事をどう思っているのだろう? 


 嫌われていないのは分かっている。でも異性として僕の事を好きなのかと聞かれると…恋愛経験のない僕には判断がつかなかった。


 葵さんの方をチラリと確認してみる。すると彼女も顔を真っ赤に染めていた。


 その反応はむしろ僕と似通っていて…お店の人に「恋人」と言われた事を意識しているように思えた。


「す、すいません。私、ちょっとお手洗いに!」


「あ、葵さん!?」


 彼女は真っ赤に染まった顔を両手で隠しながら、近くにあったトイレへと走り去っていってしまう。


 僕はそんな葵さんの背を見送りながら、先ほどの反応の意味を考えた。


 僕と一緒に遊園地を回る事を承諾してくれた事、お店の人に「恋人」と言われて赤面していた事、それに普段僕と楽しそうにおしゃべりやゲームしてくれる事。


 これらの事を総合的に考えると、もしかして葵さんも僕の事が好き…なのかな?



○○〇



 トイレから戻って来た葵さんと再び遊園地を回る。


 葵さんは僕の事が好きなのではないかとは疑っていたが、まだ確証を得るには至らなかった。


 僕も彼女の事は好きだ。恋人になりたい。でも…もし僕の予想が間違っていたとしたら? 


 これまでの彼女との関係は崩れ去ってしまう。


 僕は悩んだ。そして悩んでいるうちに…時刻は夕方になってしまった。

 

 そろそろ帰らなくてはいけない時間だ。


「もうこんな時間…。楽しい時間は一瞬で過ぎちゃいますね。…最後に観覧車に乗りませんか?」


「うん、いいよ」


 僕たちは最後に観覧車に乗る事にした。この観覧車から降りれば今日は解散となるだろう。


「キレーイ」


「本当だね」


 観覧車からは夕日が綺麗に見えた。その景色はとても幻想的で…告白するには絶好のシチュエーションのように思えた。


 僕は未だに悩んでいた。


 葵さんも僕の事が好きなのか? それならここで告白するべきか?


 彼女の様子を確認する。


 僕を見つめる彼女の頬が赤く染まっていた。それは夕日によるものなのか? …それとも?


 …この機会を逃すと恋愛面でヘタレな僕は一生彼女に自分の気持ちを伝えられない気がする。


 ならば。


 僕は自分の直感を信じて彼女に告白する事にした。


「「あ、あの!」」


 しかし僕が彼女に声をかけると同時に葵さんも僕に声をかけて来る。


「「あ…////」」


 お互いに気まずさでしばし沈黙する。僕たちの乗るゴンドラはいつの間にか観覧車の頂上付近までやって来ていた。もうあまり時間は残されていない。


 僕はなんとか勇気を振り絞って彼女に話しかけた。


「僕さ…葵さんに伝えたい事があるんだ」


「つ、伝えたい事…ですか?」


「葵さん、僕は君といると…とても楽しいんだ。一緒におしゃべりしたり、ゲームしたり、君と一緒に居るだけでも楽しい。最初はこの気持ちの正体が何なのか分からなかった。僕の名誉を取り戻してくれた君への尊敬の気持ちかなと思っていた。でも気づいたんだ。僕は葵さんの事が…」


 僕がそう言いかけたところで葵さんが声を上げる。僕を見る彼女の顔は林檎よりも真っ赤に染まっていた。


「ま、待ってください本山君! 実はわ、私も…さっき本山君と同じ事を言いかけてたんです。だから、その…一緒に言いません? いち、にの、さんで一緒に!」


「一緒に?」


 葵さんのその言葉で僕も彼女の気持ちを理解した。


 なんだ、僕たちはずっと前からお互いの事が…。


「行きますよ。いち、にの、さん…」


「「僕は葵さんの事(私は本山君の事)が好きです! お付き合いしてください!!!」」


 僕たちは同時にお互いの想いを告白した。



◇◇◇


2人の想いはここに結ばれる。


告白のシーン凄く悩みました。色んなパターンを考えて悩んだ結果、こうなりました。


射的屋がある遊園地は私が小さい頃に行った遊園地を参考にしています。普通の遊園地には多分あまりないと思います

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る