海野茜の変化 ※修正あり

 結局、今回海野茜が起こした事件は僕が最後にポカをやらかした事により痛み分けという結果に終わった。彼女たちがやったのは明確な犯罪行為だが、僕も同じく彼らに犯罪行為をしてしまったために大きく出られないのだ。


 もし僕があの時冷静な対処ができていたら…彼女たちだけが警察の御厄介になっていたはず。そこに関しては大いに反省しなくてはならない。


 前々から海野茜はクラスで腫物扱いされていたが、また彼女が騒げばその言葉を信じかねない奴がいた。


 だが今回の事件の影響で海野茜一派…木島と清川を含む3人は完全にクラスでの発言権を失い、クラスカーストの最底辺へと落ちた。


 他人の罪をでっちあげて告発する。そんな事をする奴らの言葉を信じる人間はもはや誰もいないだろう。


 僕がクラスメイトたちの間で密かに根回しをしていたのも功を奏した。なんせ今回彼らは偽の証拠として葵さんの下着を僕の鞄の中に入れていたのだ。


 もし僕が事前に根回しをしていなかったら…彼らの発言を信じ、僕をまた犯罪者扱いする奴もいたかもしれない。


 事前に根回しをしていたからこそ、海野茜の発言をクラスメイトたちは迂闊に信じなかったのだ。


 もう彼らが何かしら騒ぎを起こしたとしても、それを信じる奴はいないと思われる。しかし念には念を入れて僕はそのまま海野茜に対する防衛網は維持しておくことにした。何かあればまたクラス全員で彼女を糾弾する。



○○〇



「ヒッ…」


 翌日、僕が教室に登校するとトイレから戻って来た海野茜と鉢合わせした。つっかかってくるのかと思ったのだが、彼女は僕の顔を見るや恐怖に顔を歪めてそそくさと自分の席へ戻っていった。


 どうやら昨日力ずくで土下座させた影響か、彼女の中で僕に対する恐怖心が生まれたらしい。


 …極々一般的な人間はやってはダメな事をすると周りの人間、特に両親や友人などからお叱りを受ける。


 「人の嫌がる事はするな」「それをやると周りの人の迷惑になるでしょ?」「人の気持ちを考えて行動しろ」と。


 最近では少ないが、あまりにも酷い場合は暴力的な制裁…親からげんこつなどを食らったり、怒った友達から殴られる事だってあるだろう。


 人はそうやって小さい時からやって良い事と悪い事の区別…社会的な常識を身に着け、やがて立派な大人へと成長するのだ。


 ところが海野茜は今まで散々甘やかされて育ってきた。他の人間が言えば顰蹙ひんしゅくを買いそうな事でも「可愛いから」「女の子だから」「病弱だから」という理由で大目にみられてきた。


 特に両親は病弱に産んでしまった事への負い目からか、彼女を散々甘やかした。我儘は全て聞き入れ、特に彼女を叱る事もしなかった。


 周りの人間も彼女が腹の立つ事を言ったとしても、病弱で可哀そうな人間だからとその握りこぶしを振るわずに解いてきた。男性の場合は女の子にこぶしを振るう事に躊躇があったのかもしれない。


 後は…葵さんが謝りに行き、相手の怒りを抑えていたというのもある。


 だからこそ彼女は自分が何を言っても反撃を食らう事はない、自分の意見がまかり通ると思っていたのだろう。


 彼女は今までその社会性を学ぶ機会が無かったのだ。ある意味不幸と言ってもいい。まぁ…同情はしないが。


 海野茜は昨日初めて…他人の逆鱗に触れるとどうなるのかという恐怖を味わった。


 昨日僕は彼女が何か言うのを無視して力ずくで押さえつけ土下座させた。彼女は必死で抵抗したが、所詮は運動もしていない細い女。男性の筋力に敵うはずもない。


 抵抗しても抵抗しても筋力差で押さえつけられ身動きが取れない。か細い自分の力では男性の力には絶対に敵わない。


 彼女は無理やり押さえつけられるという痛みを感じる事によって、人生で初めて恐怖と共に自分の犯した過ちを理解したのだ。


 これで彼女の身体と脳には「他人の怒りを買うと自分が痛い目に会う」という事が刻み込まれたはず。


 これに懲りて、もう僕に突っかかってくる事が無いといいのだが。



○○〇



 嵐が過ぎ去り、平和になった教室で僕はまた昼休みに葵さんと協力プレイをやっていた。最近は昼休みになると毎日のように協力プレイをしている。


 彼女と協力プレイするのは僕の最も楽しみとしている時間だった。自然と顔から笑顔が溢れて来る。


「どうしました本山君?」


 葵さんは僕に向かってニッコリと微笑む。僕は彼女のその表情を見て赤面した。


 僕は彼女の事が好きだ。いざ自分の感情に気が付くと余計に彼女の事を意識してしまい、顔が熱くなる。


「い、いや。何でもないよ…。そ、それよりも今日は暑いね。ハハッ…」


 僕は慌ててそれを誤魔化した。


 葵さんは僕の事をどう思っているのだろうか? 一緒にいてくれるのだから嫌われてはいないと思うが。


「………」


 ふと隣を見ると、正平がそんな僕の顔をジーッと見つめていた。僕はそれを不思議に思って彼に尋ねる。


「正平、僕の顔に何かついてる?」


「生人、お前もしかして…いや、なんでもない」


「そ、そうだ! 正平も協力プレイしようよ。確かこのゲームやってたよね?」


「俺はいいや。今日は家にスマホ忘れてきた」


「えぇ…」


「本山君、まだ時間あるのでもう1回やりましょうよ!」


「そうだね」


 正平の言葉に疑問を抱いた僕だが、葵さんが再び協力プレイを求めてきたので、そちらを優先する事にした。



◇◇◇


※6/22 少し内容を修正しました。


正平…気づく。

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