僕は親友にハメられる

~another side 藤堂正平~


 俺の名前は藤堂正平。生人の親友をやらせてもらっている。


 少し前に海野葵という女の子が生人に好意を持っている事に気が付いた。なんでも生人が彼女の危ない所を助けたからだとか。


 生人はいい奴だ。そんな親友に彼女が出来れば俺も嬉しい。そう思った俺はせっかくなので彼女の恋の手伝いをする事にした。


 ただ1つ問題があるとすれば…生人がかなーり鈍感だった事だ。葵さんは露骨にアピールしているのだが、生人がそれに気づいている素振りは無かった。


 俺は彼女がアピールしていれば生人にそれを振ってあげたり、それとなく2人っきりにしてあげたりと色々手を尽くした。いつかは葵さんの想いが通じればいいなと思って。


 …だが最近生人の様子を見ていて気が付いた事がある。


 それは生人の方も葵さんに好意を持っているのではないか…という事だ。


 最初こそ葵さんに対し、比較的淡白な反応を見せていた生人だったが…最近は生人も葵さんといると楽しそうにしている。それに彼女の顔を見ながらボーっとしている時もあるし。


 現に彼らは今俺の目の前でゲームの協力プレイをしているのだが、生人の表情は俺とプレイしている時よりもずっと楽しそうで…おっと、別に嫉妬している訳じゃないぞ。俺の性癖はノーマルだ。決して同性愛者ではない。


 これはひょっとすると…ひょっとするかもしれないと思った俺は1計を案じる事にした。


「なぁ、知り合いから△△市にある遊園地の割引チケットを貰ったんだけど…今週末に3人で行かないか?」


「△△市にある遊園地? あぁ…あのちょっと寂れた所ね。でも僕たちと一緒でいいの? 正平のご家族とかは?」


「あーウチの家族は基本ああいうのには興味ないのよ。だから俺にチケットくれたんだし。チケットの期限が今週末で切れるからさ、今週行かないとただの紙クズになるんだ。せっかくだし行ってみないか?」


「正平がそう言うなら僕はいいけど…葵さんは?」


「私もいいのですか?」


「全然OKよ。チケットは3枚あるから俺と生人と葵さんで丁度3人だ。先に渡しとくぜ」


 俺は2人にあらかじめ財布に入れておいたチケットを渡した。もちろん俺は当日理由をつけて行かない。彼らには2人っきりでデートして貰う。


 これで少しでも2人の距離が近づけばいいなと願って。



○○〇



~side 本山生人~


 土曜日、朝早く起きた僕は遊園地に向かう準備をする。好きな女の子と遊びに行くという事で若干緊張してはいるものの…どちらかというと楽しみな気持ちの方が大きかった。


 正平とだけなら別にラフな格好でもいいのだが、今日は好意を抱いている女の子と一緒に遊ぶのだ。まずは身だしなみをしっかり整えなくてはならない。変な格好をしていく訳にはいかない。

 

 僕はクロゼットから服を引っ張り出し、スマホで「高校生におススメの春ファッション」のページを見ながらコーディネートを選ぶ。続けて洗面台の前に立ち、寝癖がないか髪型のチェックをした。


 13時に現地集合だと聞いているのでお昼ご飯も少し早めにとった。


 そして家を出る前に忘れ物が無いか最終確認。


 …スマホは持った。財布は持った。ハンカチも持った。チケットは財布に入れてある。


 …ヨシ、出発だ!


 僕は高揚する気分を抑えつつ家を出た。


 遊園地は△△市にあるので、まずは電車に乗ってそこへと向かう。


 同じ電車内に正平と葵さんが乗っていないかと探してみたが、2人の姿は見つからなかった。1本早い電車で向かったのだろうか?


 数十分後、無事遊園地に到着した僕は入場ゲート前で待ち合わせしている正平と葵さんの姿を探す。


 …いた! 


 僕はチケット売り場の横でたたずむ葵さんの姿を見つけた。


 葵さんは大人しめの色をした紺色のブラウスと少し長めのマーメイドスカートを身に着けてそこにいた。彼女の雰囲気に似合っていてとても綺麗だ。


 いつもは制服姿しか見ていない葵さんが今日は私服姿で目の前にいる。それは僕にとってとても新鮮で…そこにいる彼女の魅力を何倍にも増幅させているように思えた。


 しかしあまりにも魅力的な彼女の姿に、僕は話しかける前からガチガチに固まってしまう。


 えっと…なんて声をかければいいのだろう? 服とかを褒めればいいんだっけ?


 思考がグルグルと頭の中で渦巻く。


 僕がどのように話しかけようか迷っているうちに、向こうの方がこちらに気が付いたらしく、葵さんはトトトと可愛く駆け寄って来た。


「本山君、おはようございます。今日は晴れて良かったですね!」


 可愛らしい私服姿の彼女が僕の瞳にドアップで写り込む。


 …なんて可憐なんだ。おっと…見とれている場合じゃない。挨拶を返さないと。


「お、おはよう葵さん。本当に晴れて良かったよ。絶好の遊園地日和だね」


「はい。私、今日はとても楽しみにしていたので本当に晴れて良かったです。えっと…」


 僕が挨拶を返すと彼女は少しソワソワし始めた。何やら落ち着かない様子だ。


 あっ、これはもしかして…。


「葵さん、その服とても似合ってるよ。か、可愛いと思う」


 おそらく葵さんは服装を褒めて欲しいのだと思った僕は彼女の服装を褒めた。葵さんは僕の答えを聞くや頬を赤く染めて嬉しそうな表情をした。


 どうやらビンゴだったらしい。


「あ、ありがとう…ございます/// その…本山君も今日のファッション、とってもカッコイイですよ。いつもは制服姿しかみていないので、なんだか新鮮ですね♪」


 彼女はお返しとばかりに僕の服装を褒める。


 カッコイイ…? 葵さんは僕の服装をカッコイイと褒めてくれたのか? 


 僕は心の中でガッツポーズをした。せっかく好きな女の子と遊ぶのだからと必死にネットで流行のファッションを調べた甲斐があった。


「藤堂君はまだ来てないんですかね?」


 葵さんが僕にそう尋ねてくる。彼女にそう言われて僕はそこで初めて「この場に正平がいない」という事実に気が付いた。


 彼は何をやっているのだろうか? スマホで時間を確認すると集合時間の5分前だった。


 ピロリン♪


 とその時、僕のスマホに正平からのメッセージが届いた。僕はそれをタップして開封する。そこにはこう書いてあった。


『スマン、今日は腹が痛いから遊園地行けないわ。お前ら2人で楽しんでくれ』


「えっ、また腹痛?」


 ここ最近正平は頻繁に急な腹痛に襲われている。こんなに頻繁に腹痛が起こるのはおかしい。何か変な病気か?


 いや、そういえば…と僕は思い出す。彼の腹痛が起こった時は決まって僕と葵さんが2人きりの状況になっていた。


 そこで僕は初めて気が付いた。これは…正平にハメられたのではないかと。


 正平は僕の葵さんに対する気持ちに気づいているのかもしれない。だから彼は僕と葵さんを2人きりにさせるためにワザとこれを企画したのだ。正平ならそういうのをやりそうではある。


「正平~~~!!!」


 僕はその場で親友の名前を叫んだ。



◇◇◇


正平の策略により遊園地デートする事になった2人。どうなる?

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