僕は3バカの悪だくみを華麗に躱す

「この下着泥棒め! 葵の下着を盗むなんてとんだ最低野郎だ!」


「本山君、警察に行こう。そして罪を償うんだ!」


「これでアンタはこの学校に居られないわね。気持ちの悪い陰キャチー牛が居なくなってくれてせいせいするわ。ざまぁ!!!」


 海野茜、木島誠也、清川斗真の3バカは下卑た顔をしながら僕に下着泥棒の罪を擦り付け罵倒する。


 だが彼らは気づいていないようだ。自分たちがとんでもない墓穴を掘ったという事に。


 さぁ、ここからが僕の反撃の始まりだ!


 僕は1度深呼吸をして気持ちを落ち着けると冷静に木島に質問をした。


「なぁ木島、1つ質問なんだが…どうして僕の鞄に葵さんの下着が入っているって分かったんだ?」


「そんなのお前の鞄の中にブラが見えたからに決まってるだろうが! 馬鹿じゃないのかお前! 陰キャチー牛は頭も悪い。そりゃ牛なんだから当たり前か! ブッハッハッハ!!!」


 僕がそう質問すると木島は「何をそんな当たり前の事を」というような顔をしてあざ笑った。


 やれやれ…バカはいったいどっちなんだか。


「ダウト! よく思い出してみろよ。お前は僕がジッパーを開ける前に鞄をひったくって中に葵さんの下着があると主張したよな? 閉じている鞄の中に何が入っているかなんて普通分からないと思うんだが?」


「はぁ!?」


 僕の反論に木島は明らかに焦ったような反応をした。彼は少しの間黙っていたが、やがて言い訳を思いついたのか口を開いた。


「そ、それはお前の思い違いだ! 実際はお前の鞄のジッパーは少し開いてたんだよ。俺はその隙間から葵のブラがあるのを見たんだ!」


 ふーん…あくまで僕の記憶違いを主張してくるわけね。では次に行こう。


「…それともう1つ。お前はどうして僕の鞄の中に入っていたのがブラだと分かったんだ? ブラに名前を書いていた訳でもないし、誰のブラかなんてわからないだろ? しかもお前の言い分からすると『鞄の隙間から覗いた』との事だが、つまりそれは見えたとしてもブラの一部な訳だ。そんな少しの情報でなぜ葵さんのブラだと特定できた?」


「う゛っ…」


 木島は再び焦燥感溢れる顔をした。大粒の汗が彼の額を流れる。


「あ、茜から一昨日葵のブラが盗まれたって話を聞いてたんだよ。その時に色や模様も聞いてたから分かったんだ」


 木島は苦しい言い訳を続ける。色はともかく、模様なんて鞄のちょっとの隙間から分かるはずないだろ!


 そしてここで嬉しい事に葵さんの援護が入った。


「それはおかしいですね。確かに私は下着を失くした事を茜に話しました。しかし、それとなく『が失くなった』と言っただけで、を失したとも、ましてや色や模様の事など一言も茜には言っていないのですが…」


「な、なんだと!? おい、茜!!!」


 木島は海野茜の方を向いて助けを求める。当の海野茜は木島に対し失望したような視線を向けていた。僕はそこに追い打ちをかける。


「つまりお前は最初から僕の鞄の中に葵さんのブラがあると知っていたんだ。要するに…」


 僕の反論を聞いたクラスメイトたちは蔑むように3バカを見つめる。そろそろ彼らもどちらの主張が正しいのか分かってきたようだ。


「あーもう! ゴチャゴチャとうるさいわね!」


 木島の無能さにしびれを切らしたのか、海野茜が彼を押しのけ僕の前に出て来た。この状況でまだ何か反論する事があるのか。


「あのねぇ! いくら言い訳しようがアンタの鞄にお姉ちゃんのブラが入っていたのは事実なの! アンタが盗んだんでしょ? とっとと警察に逮捕されちゃいなさい。この犯罪者!」


 どうやら彼女はその場の勢いで乗り切るつもりらしい。もうこのクラスにいる人間のほとんどはこの事件の真相に気づいていると言うのに…。


 しかたない。彼女が望むのならもっと徹底的に反論してやろう。


「お前はどうしても僕が葵さんの下着を盗んだと主張したいみたいだな?」


「そうよ。性犯罪者のアンタは一昨日お姉ちゃん家の庭に忍び込んで干していた下着を盗み、そしてそれを自分の鞄の中に入れていた! それ以外の事実があり得るって言うの?」


 …またツッコミどころ満載な主張だな。反論のしがいがある。


「まず僕は葵さんの家がどこにあるのか知らない。それにさ、土曜の天気を思い出してみなよ」


「天気ぃ? それがどうしたって言うの?」


「土曜の天気…土砂降りの大雨だったよな? それなのに庭に下着を干すってありえなくないか? あんなに雨が降ってたら普通は部屋干しするか乾燥機を使うだろ?」


「そ、それは何の反論にもなってないわ! アンタは家の中に忍び込んで下着を盗んだのよ!」


「葵さん、土曜はご両親はご在宅だったのかな?」


「はい、両親ともに家にいました」


「つまり土曜日の葵さんの家には葵さんとご両親の3人がいたことになる。3人もいて誰も家の中に部外者が侵入した事に気づかないなんてあり得る?」


「でも実際アンタは盗んだじゃない!」


「そうじゃなくてさ、僕が言いたいのはこの下着を盗んだ犯人は葵さんの家にいても違和感のない人物だったって事だよ。例えば…葵さんの従妹のお前なら『遊びに来た』とでもいえば簡単に家の中に入れるだろ?」


「そういえば茜は土曜日にうちに来ました。下着が失くなったのに気づいたのもその後です。茜、あなた…」


「ぐっ…」


 海野茜の表情がだんだんと苦しそうな物へと変わる。


「わ、私が盗んだって言いたいの? 私がお姉ちゃんのブラを盗んで何の得があるのよ! 意味が分からないわ! やっぱりチー牛はチー牛ね! 反論も意味不明!」


「あとさ、仮に僕がブラを盗んだのだとしたら…それをいつまでも鞄の中に入れておくのはおかしくない?」


「…何が言いたいのよ?」


「盗んだものをわざわざ学校に持って来るのかって事だよ! 普通はバレないように自分の部屋とかに保管しとかない? 他人に見つかるような所に持って来るなんてありえない」


「………」


「開けてもない鞄の中に葵さんのブラがあると見抜いた奇妙な木島の主張、そして一昨日盗まれたブラが何故か僕の鞄の中にあるという不自然さ…。これらの事から考えるに誰かが僕の鞄の中に盗んだブラを仕込んだとしか思えない。そしてそれが可能だったのは…葵さんの家にいても違和感のないお前だけだ! もういい加減白状したらどうだ? みんなもう分かってるんだよ。お前が僕を貶めるために葵さんのブラを盗んで鞄の中に仕込んだのがな!」


 間違いなくこれがこの事件の真実だろう。図星を突かれた海野茜の表情がこれまで以上に悔しそうなものへと変わった。



◇◇◇


※設定忘れている人のために念のため補足しておくと茜と葵は正確には従妹の関係です。小さい頃から一緒に育ったのでお互いを姉妹のように思っているだけです。


なので茜と葵の住んでいる家は場所こそ近いですが別々です。

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