葵さんと僕の感情 ※修正あり

 それから数日経った。僕は海野茜に難癖をつけられた時のためにクラスみんなで集団的自衛権を行使するべく、密かにクラスメイトたちをこちら側に抱き込みにかかった。


 最初は僕のオタク友達から始まり、クラスカーストの中間層、次に上位層、そして女性陣とどんどん防衛の輪を広げていく。


 大体僕の予想通り…みんな海野茜には不満を抱えていたのと、僕を冤罪でクラスから追放した負い目があるせいか、提案にはスムーズに乗ってくれた。


 これで僕が海野茜に何かしらイチャモンをつけられたとしても、みんな僕の擁護に回ってくれるはずだ。


 海野茜がこのまま大人しくしていてくれるならばそれに越した事は無い、しかし彼女はその性格的に遠からず僕にイチャモンをつけて絡んで来るだろう。だからこちらもその時に備えて反撃の狼煙をあげる準備をしておく必要がある。



○○〇



「えーっと…これがそうですかね?」


「そうそう、それ。アプリを『入手する』のボタンをタップしてダウンロードしてみて」


 ある日の昼休み。僕と葵さんと正平の3人は一緒に昼食をとった後、僕の席の周りに集まっておしゃべりをしていた。


 最近は昼食時になると必ず葵さんが僕と正平を誘いに来る。


 …僕たちを昼食に誘ってくれるのは凄く嬉しいんだけれども、葵さんの方は友達付き合いとか大丈夫なのだろうか? 彼女には彼女の交友関係があるだろうに。


 今僕たちが何をやっているのかと言うと…葵さんにおススメのゲームアプリを教えていた。


 どうやら彼女はこの前ゲーセンで遊んだのをきっかけに、ゲームにドハマりしてしまったらしく、僕たちにスマホで気軽にできるおススメのゲームアプリを聞いてきたのだ。


 どんなゲームがやりたいのかと尋ねてみたら、この前のゾンビシューティングのようなものが良いとリクエストを受けたので、初心者にも簡単で人口が多く人気のある奴を勧めておいた。このクラスでも結構やっている奴がいるらしい。


「そのゲームは初心者にも優しくて、友達と協力プレイもできるから面白くておすすめだよ。今かなり流行ってるんだ」


「本山君もやっているんですか?」


「うん、僕と正平もやってるよ」


「でしたら早速やりましょう! 協力プレイ! それとフレンド登録も!」


「えっ?」


 葵さんは先ほどダウンロードしたばかりのアプリで協力プレイをしようとせっついてくる。


 僕としてはゲームを好きな人が増えてくれるのは大歓迎だし、この前のゲーセンで葵さんが本当に楽しんでくれていた事が分かって良かったんだけど…。


 なんか生真面目な美少女をいけない道に引き込んでしまったみたいで少し申し訳なくなってくる。ここまで彼女がゲームにハマるとは思わなかった。


 僕と葵さんはフレンド登録を済ませるとゲームのミッション画面に進み、協力プレイを開始した。


「あー! あー! あー! 死んじゃいましたぁ~…。ガックシ」


「大丈夫、大丈夫。今僕が助けに行くから」


「うわっ、沢山出たぁ!? これは無理じゃないですか!?」


「落ち着いて、敵を大量にキルできる武器に切り替えよう」


 彼女はゲームの展開に一喜一憂し大興奮でプレイしている。表情がコロコロ変わって見ていて飽きない。


「やったー! 勝ったぁ! やっぱり本山君とプレイするのは楽しいなぁ/// また…私と協力プレイしてくれますか?」


 彼女は顔の下半分をスマホで隠しながら上目遣いで僕にそう尋ねて来る。その可憐な仕草を見て僕の心臓はドキドキと高鳴った。


 可愛い…。美少女の上目遣いは反則だ。これを断れる男などいないだろう。…もちろん断る気もないけど。


「う、うん、いいよ。暇な時に連絡くれれば僕はいつでも協力するから」


「いいんですか!? じゃあ…そのぉ/// 連絡先…交換しません?」


「もちろんだよ」


 僕は早鐘を打つ心臓の鼓動を何とか抑えながら彼女の申し出を承諾した。 


 …そういえば葵さんとは結構仲良くなったつもりでいたのだが、まだお互いに連絡先すら交換していなかったんだな。


 僕たちはスマホのQRコードを表示させると、お互いにそれを読み取って連絡先を交換する。


 …何気に母親を除くと僕のスマホに初めて登録される異性の連絡先だ。母親を異性に含めていいのかどうか分からないけど。


『海野葵』


 僕はスマホの画面に表示されている葵さんの連絡先をマジマジと見つめた。僕のスマホに女の子の連絡先…。


 僕はしばらくの間、生まれて初めて女の子の連絡先を手に入れた感傷に浸っていた。



○○〇



『今日も楽しかったです♪ また協力プレイしましょう』


 連絡先を交換して数日。僕は自室のベッドの上に寝転びながら、葵さんとゲームアプリで協力プレイをしていた。早速プレイのお誘いが来たのだ。


 何戦か協力プレイが終わった後、突然部屋の壁に掛けてある時計が「ボーン!ボーン!」と大きな音を鳴らす。時間を確認すると時計の針は0時を指していた。


 えっ、もうこんな時間なのか? …葵さんとゲームをしていると時が経つのが早く感じる。


 流石にそろそろ止めないと明日に差し障る。明日はまだ平日で学校もあるのだ。


 葵さんも0時を過ぎた事に気が付いたらしく、とりあえず今日はここまでにしようという話になった。


 そしてゲームから落ちる寸前にチャットにて彼女から先ほどの文章が届いたのである。


 僕はその文章を見ながら少しニヤけてしまう。彼女も僕との協力プレイを楽しんでくれているのだと思うと胸が高鳴った。

 

 最近は葵さんとゲームをするのが楽しみで仕方がなかった。正平と一緒にやるのも楽しいが、彼とやるのとはまた違った楽しみがある。


 …本当に彼女といると楽しい。


 そこまで考えて僕はようやく気づいた。


 …ん? それってもしかして…? 確かに彼女は尊敬に値する人だけど。


 …いや、もう言い訳はやめて認めよう。僕は彼女におそらく好意を抱いている。彼女の事が異性として好きなんだ。


 葵さんといると楽しく感じるのは僕が彼女の事が好きだからだ。


 …本当はもっと前からこの感情の正体を理解していた。だけど僕は自分の心を騙してその感情の正体が分からないという事にしていたんだ。


 だって僕は所詮ゲームやアニメが好きなだけの陰キャ。女の子にこういう感情を向けても絶対に報われる事は無いと思っていたから。


 それに加えて海野茜に罵倒された影響もあるのだろう。あれで僕の中に「やはり僕の存在は女の子には受け入れられないんだな」という女性に対する恐怖心が助長された。


 だからこの感情の意味を理解しなければ自分が傷つく事もない。心の防衛本能が働いて、自分の心をずっと偽っていたんだ。


 でも自分でも気持ちを偽り切れないほど、葵さんは僕の心の中に溶け込んで…その存在が大きくなっていってしまった。


 もう1度言おう。僕は葵さんの事が好きだ。



◇◇◇


※6/16日 内容を修正しました。


ラブコメパートもしっかりとやっていきます。

次回はあの3人組が動き始めます。

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