次の日の教室で…

 次の日、僕は若干緊張しつつも学校に登校した。


 昨日クラスメイトたちは僕を受け入れてくれたとはいえ、1度クラスから追放された身からするとまだあの時の恐怖心が消えない。それくらい僕にとってあの出来事はトラウマだった。


 だが僕の心配とは裏腹に、教室に入るやクラスメイトたちが「おはよう!」と暖かく声をかけてくれた。


 僕はその声を聞いて「あぁ、僕はちゃんとクラスに受け入れて貰えたんだ」と改めて胸をなでおろした。僕もクラスメイトたちに「おはよう」と朝の挨拶を返す。


 自分の席に着くとオタク友達たちが昨日放送された深夜アニメの感想を語り合おうと集まって来た。


 完全に元通りとはいかないが…僕の平穏な高校生活が戻って来たのだ。


 一方で…。


「ちょっとアンタ、このプリント私の代わりに先生に提出してきてくれない? 私、病弱だから職員室まで行くのしんどいのよね」


 教室の窓際の席に目をやると海野茜は相変わらずその傍若無人ぶりを発揮していた。彼女は近くにいた男子生徒を捕まえ、自分のプリントを提出してこいと命令している。


 「…清川と木島はどこ行った? こいつの面倒見るのはあの2人の仕事だろ?」


「あのねぇ! 私はアンタに頼んでるんだけど? あの2人はまだ登校してきてないから仕方なくアンタに頼んでんのよ」


 プリントの提出を命令された男子生徒はめんどくさそうに清川と木島の姿を探す。昨日の1件とここ数日の海野茜のあまりの自己中ぶりにうんざりしたクラスメイトたちは彼女の我儘を全て取り巻きである清川と木島に押し付ける事にしたようだ。


 言うなれば清川と木島はこのクラスの『茜ちゃん係』と言ったところだろうか。


「…それならあの2人が登校してきてから頼めばいいだろ? 俺は忙しいんだ。じゃあな」


「なっ!? 何よあの陰キャチー牛! この私がプリントを提出する仕事を与えてやったというのに…何あの態度!? これだからモテない男は嫌なのよ。余裕がないのよね!」


 僕が断罪された3日前とは一変、クラスメイトたちの彼女を見る目は腫れ物を見る目へと変わっていた。完全にいつ爆発するか分からない不発弾扱いである。


 厄介ごとは全て清川と木島の爆弾処理班茜ちゃん係に押し付け、自分たちは出来うる限り関わり合いを避けるといったムーブを心掛けているようだ。


 彼女は一体どんな理由でイチャモンをつけて騒ぎ出すのか分からない。なので関わらないでおくのが1番賢い選択肢だと判断したのだろう。下手をすれば僕のように犯罪者扱いされて社会的に殺されかねない。


 皆自分の身が大事なのだ。いや、自分の身が大事でない人間なんていないだろう。


「ねぇ…本山君、なんか海野さん僕たちの方を睨んでない?」


 友人たちとアニメの話をしていると、僕の目の前にいたメガネをかけた男の子…佐藤君がそんな事を言い出した。


 そう言われてチラリと横目で確認する。


 確かに彼の言う通り、海野茜は僕たちの方を見てすんごい顔をしていた。その唯一の長所である綺麗な顔を歪ませてまでこちらを睨んでいる。


 彼女は僕たち陰キャの事が嫌いだから睨んでいるのか、それとも彼女をこんな状況に追い込んだ僕の方を睨んでいるのか。…多分後者だろうな。


 彼女のクラスでの評判は地に落ち嫌われ者となった。これ以上自分の立場を悪化させないためにも大人しくしているだろう。だからこちらから関わらない限り、向こうもこちらに関わっては来ないと僕は予想していた。


 しかし残念ながら僕の予想は外れてしまったようだ。彼女のクラスメイトへの横暴な態度と先ほどの表情から察するにまだ全然懲りていないらしい。


 …少し考えが甘かった。反省だ。


 彼女の方から関わって来る気なのなら…こちらは自分の身を守る術を考えておかなくてはならない。もう2度とクラスから追放されるのはごめんである。


 …でもどうする? 


 僕は思考を巡らせた。そして…ある考えを閃いた。


「ねぇ、佐藤君たち。ちょっと話があるんだけど…」


「どうしたの本山君?」


 僕は彼女に聞こえないように声を潜めると、周りにいる友人たちとヒソヒソ話を始めた。


「どうも海野さんは僕たち陰キャの事が嫌いらしい。だからなんとかイチャモンをつけようと隙を伺っているみたいだ」


「えぇ!? やっぱりそうなの? どうしよう…俺怖いよ。もし犯罪者扱いされたらと思うと…」


「うん、だからね…海野茜の言葉は信じないようにしよう。友達が海野茜に何か難癖をつけられたとしても僕たちはそれを信じない。友達の方を信じるんだ。仮に難癖をつけられたとしても僕たちはお互いにお互いの事を信じて弁護しあう。こうすればあいつに何か言われても対抗できるでしょ?」


「あっ、そうか」


 僕が思いついた海野茜への対抗策…それは「根回し作戦」である。


 「根回し」というのは物事をスムーズに進めるために事前に関係者に了承を取っておく事を言う。


 僕は事前に友達たちの間で「海野茜が何かイチャモンをつけて来てもお互いに弁護しあう」と彼らを抱き込み、確約を取り付ける事で自分の身を守ろうと考えた。


 海野茜が恨んでいるのは間違いなく僕だろう。何かしてくるなら僕にしてくる可能性が高い。


 しかしこのクラスの人間は誰しも「海野茜に難癖をつけられるのでは?」という恐怖心がある。なのでそこを利用して他の奴らも抱き込んでやった。


 自分の味方は多ければ多いほどいい。多ければ多いほど自分の擁護に守ってくれる人は増える。


 …今はここにいるオタク友達だけの間での約束だが、いずれは海野茜一派を除くこのクラス全員にこの約束を取り付けたいと思っている。


 簡単に言うとクラス全員で集団的自衛権を行使しようという事だ。海野茜の攻撃に対し、クラスみんなで対抗し防衛する。


 みんな海野茜にイチャモンをつけられるのを怖がっているはず…それに彼らには1度僕を「犯罪者扱いしてクラスから追放した」という負い目もある。同じ事を繰り返さないためにも、僕の誘いは断らないだろうと考えての事だ。


 自分でも性格が悪くなったと思う。以前までの僕なら他人の負い目に漬け込むなんて事は絶対にしなかっただろう。


 でもこれは自分の身を守るために必要な事なのだ。



◇◇◇


主人公は海野茜に対抗するための作戦を練り始める。主人公のこの作戦は果たしてどうなるのか?

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