お説教後のクラスの様子
朝のSHRが終了し、それに続く1限目の授業も終わった。休み時間になり、再び葵さんが海野茜にお説教の続きをするべく僕たちの教室にやって来た…のだが。
海野茜は1限の授業が終了するや速攻で教室を出て行ってしまい、すでにここにはいなかった。
そりゃもう超スピードで。委員長の号令が終わると同時に教室の後ろの扉からどこかに走り去って行ったのだ。本当に病弱なのかと疑いたくなるような鮮やかな動きだった。
間違いなく彼女はお説教と僕への謝罪が嫌で逃げ出したのだろう。
「まったく、あの娘は…。ごめんなさい本山君、絶対に謝罪させますから…」
葵さんは呆れた顔をしながら自分の教室に戻って行った。
葵さんが自分の教室に戻った後、僕の周りには何名かの男子生徒が集まって来た。皆、申し訳なさそうな顔をしている。
彼らは高校で新しくできた僕の友人たちだ。だが一昨日、海野茜が僕を性犯罪者に仕立てあげた際にこちらを疑いの目で見ていた奴らでもある。
「本山君ごめん。…俺たち勘違いしてたよ」
彼らが一体何をしに来たのかと思ったが、僕に謝罪しに来たらしい。葵さんのお説教により、クラスメイトたちの僕に対する誤解はそこそこ解けたようだった。もちろんあくまでそこそこであり、全員ではないが。
…あの時の僕は彼らを「どうして信じてくれないんだ?」と恨んだ。
しかし冷静になって考えてみると、たった2週間で新しく出会った人物の性格を理解しろというのも無理な話である。だから彼らは僕を信用しきれなかったのだろう。
他人の性格を理解するには長い時間がかかる。一説によると他人の性格を細かい部分まで理解するには最低でも3年もの長い月日がかかると言われている。
正平が僕を信じてくれたのも彼とは3年以上の長い付き合いがあり、彼は僕がそんな事をしない性格だとをよく知っていたからだ。
そう考えた僕は彼らを許す事にした。1度は崩れてしまった信頼だが、これからまた深めて行けばいいだけの話だ。
僕が「また仲良くアニメの話をしよう」と言うと彼らはパァっと顔をほころばせた。
彼らを僕が許したのを見た他のクラスメイトたちも、こぞって僕に謝りに来た。僕は彼らの事も許した。
この世に完璧な人間などいないのだ。特に僕たちはまだ高校1年生。まだまだ発展途上の年齢である。間違える事だってあるだろう。
その様子を見ていた正平からは「お前は優しいな。文句の1つや2つぐらいは言っても良いと思うぜ?」と言われた。
…正平が言うように、ここで僕が彼らに文句を言う事は容易い。
だが僕は今回の事件で痛感した。
何かあった時のためにできるだけ自分の所属するコミュニティに味方を作っておいた方がいいと。そうすれば何かあった時に僕を擁護してくれる人が増えるのだ。
僕が彼らに恨み言を言ってしまうと、また彼らとの距離が遠くなってしまう。言い換えれば彼らと仲良くなれる可能性が低くなってしまうという事だ。
その結果…彼らはまた僕の敵に回ってしまうかもしれない。それは避けたかった。
それに…彼らは僕に対し「罪のない人間を勘違いで非難し、追い詰めてしまった」という負い目がある。その負い目を僕が寛容にも許す事で更に大きくさせてやろうという魂胆である。
彼らはその罪の意識から、僕に協力的になる事は間違いないだろう。
特にこれからまだ1年間はあの海野茜と同じクラスなのだ。彼女がまた何かやらかした時のための備えをしておいて損はない。自分の味方は多ければ多いほど良い。
…我ながら性格が悪くなったとは思う。でもただ善良なだけでは自分の身さえも守れないのだ。狡猾に動かざるを得ない時もある。
○○〇
2限目の休み時間も3限目の休み時間も海野茜は教室から颯爽と姿を消した。
「またいないのね…。しょうのない子」
お説教のために僕のクラスに来ていた葵さんがため息を吐きながらそう言った。
おそらく…海野茜はほとぼりがさめるまでずっと逃げ続けるつもりだろう。ずっと逃げ続けて葵さんがお説教を諦めるのを待つ戦略だと思われる。
「葵さん、もういいよ。彼女絶対に謝る気ないし、イヤイヤ謝られてもね…。それに葵さんに毎回こっちの教室に来てもらうのも申し訳ないしさ」
「しかし…」
葵さんには感謝している。彼女のおかげで僕の名誉は完全に…とまではいかないが、かなり回復した。僕の事を勘違いしていたクラスメイトたちから謝罪も受け、クラスに受け入れて貰えた。
学校中に広まった僕が性犯罪者という噂も彼らが否定し、そのうち消えるだろう。人の噂も75日だ。
最初はどうなる事かと不安だったが、僕はなんとか高校に通えそうだ。これだけしてくれただけでも十分である。
…ぶっちゃけ僕は海野茜から謝罪を受けたいという気持ちよりも、彼女とこれ以上関わり合いになりたくないという気持ちの方が強かった。あんな頭のおかしい女に関わるのはもうごめんだ。
現在彼女のクラスでの評判は地に落ちている。なのでこれ以上彼女が何かしでかす事は無いだろうと予想しての事だ。こちらから関わらなければ、彼女が何かしてくる事も無いだろう。
僕は葵さんに「名誉回復を手伝ってくれてありがとう」と伝えた。
「本山君がそこまで言うのなら…わかりました。ですが最後に私からもう1度謝罪をさせてください。…この度は本当に妹がご迷惑をおかけしました」
彼女は僕に何度目か分からない謝罪をした。
…律儀な人だ。葵さんはしっかりしているのに、どうして海野茜はああなったのかねぇ? 一応血は近いはずなのだが…やはり甘やかされて育ったのが大きいのか?
「あの子には学校が終わった後にまたお説教をしておきます。流石に家の中なら逃げられないでしょうから」
葵さんは黒い笑みを浮かべながらそう言った。
こうして僕の高校生活に再び平穏が戻って来た…かのように思えた。
◇◇◇
クラスメイトたちから謝罪を受け、なんとかクラスに受け入れて貰えた主人公。これで一件落着かのように思えたが…?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます